―Christmas Eve in Frosty Gray―


「お疲れさま。お先に」

小さく会釈を返す羽沙希君に軽く手を振って一足先に
更衣室を出た。
急ぐ理由など無いけれど今夜はひとりになりたくて足早に
職場を後にする。
だからって行く当てが有るワケじゃない。
ぶらぶらと歩いているうちに官庁街を抜けて明るい街中へ
出た。
眩い光の点滅と行き交う人の多さに一瞬立ち止まる。

「クリスマスイブだもんなぁ。。。」

無意識に、着信が無いか携帯を見ていたと気付いて苦笑。
思い切って電源を切り、コートのポケットに突っ込む。
どうせ一番声が聞きたい人からは掛かって来ないだろうし。
無ければ無いで気にしないで済む。

「今夜は晴れないのかな?」

雲が厚くかかっていて月も星も見えない暗いだけの夜空。
前髪を掻き上げた手の下で瞼を閉じて、湧き上がってきた
言葉を飲み込まずに口に出す。

「あ〜あ。うちに帰りたくない。。。」

街路樹に灯る光が揺れて、突然吹き抜けた風の冷たさに
背中を丸めて歩いているとやがて隣のセクターとの間にある
公園に辿り着いた。

なんでここに来てしまったのだろう。。。!?

顔の前で両手を合わせて自分の息で暖を取ろうとしている
ように見せかけて耐えたけれど、本当は泣き出しそうだった。
胸に手を当てて何度も深呼吸をして気持ちを鎮めてから、
公園の入り口の横に在るカフェに入ってカフェラテを注文した。
ふわふわに泡立ったミルクの表面に幾重にも重なったハート
のモチーフが描かれたラテの入った厚手の白いカップを持って、
バルコニー席の端っこに座る。

こんな寒い夜に好んで外の席に座る者など居ない。
それに立ち上る湯気が周囲の景色を見えなくさせる。
それでいい。。。それがいい。

こんな時こそ星空を見ていたいと思うのに。


「清寿!」

幻聴かと思うより先に、腰を浮かせて振り返っていた。

「おまっ、なんでケータイ切ってんだよ!探しただろう」

こっちに向かって大股で歩いてくる大きな影。

「笑太君?なんでここが。。。」
「一年前の今日、ここで待ち合わせしたよな?」

やっと聞こえるくらいの小さな声で「ちゃんと覚えてんだよ」と
少し怒った様に云ってから、口の端を上げてにやりと笑った。

「。。。こんなに長く会ってないと忘れちゃうよ、笑太君の事」

隣の椅子に座って僕の飲みかけのカップを掴み上げ、ラテを
ひとくち口に含んだ笑太君に微笑み掛けて目を伏せる。

「俺は忘れない」

膝の上に揃えて置いた拳の上に重ねられた手のひらが、

「清寿と付き合い出してからのこと、全部」

冷えた頬に触れた唇が温かい。

「嘘ばっかり」

自分でもびっくりするほど冷静な声で云えた。

「強くなったな」

返ってきたのが意外にも嬉しそうな笑顔と声で、拍子抜け
して呆れた表情(かお)で見返す。

「もしそうだとしても笑太君のおかげじゃないからね!」

重ねる唇の隙間から零れる吐息で視界が白く煙る。
髪を撫でてくれている手に手を重ね、指を繋ぎ合って温もり
を確かめる。

「最高のクリスマスプレゼントだろ?」

顔に息がかかるほど間近で青い瞳(め)が笑う。

「それ自分で云う?」
「俺が云わなきゃ誰も云ってくれなさそうだからな」

指と指を絡めて、何度も何度も唇を合わる。

「僕より先に云わないでよ」

精一杯の虚勢を張る。

「素直じゃねぇなぁ。じゃ、云ってくれる?」

僕の気持ちなんて見透かしたような確信犯の微笑み。
すんなり折れるのが悔しくて、その強い視線から逃れる様
に見上げた夜空は相変わらず曇っていて、雪くらい降って
くれれば絵になるのに、と、思った。


「メリークリスマス。会いに来てくれて。。。ありがと」


―The end―






P.S.
山下達郎の『クリスマスイブ』が
クリスマスの曲の中では一番好き。
大変ベタですがこの時期になり
この曲を耳にする度思います。

。。って毎年云ってるような?(汗

2010年12月現在連載では
笑太が長期休暇中となっていて、
第一が出てこない話が続いています。
多分清寿も全然笑太と会えていない。。
だから今年の話も少し切ない始まりで。
でもハッピーエンドにしたかったので
甘い話にしてみました。

Merry Christmas for All Lovers♪
10/12/17Fri.


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