「笑太君は雨、苦手だよね?」

濡れた髪を肩の後ろへと払った、その手を包む手袋が血で
赤く染まっていた。
一番上のボタンまできちんと締められた白いシャツの襟元に、
顎から水滴が滴り落ちるのを見ていた。
雨で灰色だけになった世界で、清寿にだけ色が付いていて。

「笑太君?!」

何も云わずに腕を掴んで、引き寄せて。
覚悟したように笑みを消した唇の上に、唇を押し付けた。


―Dependence―


途切れ途切れの喘ぎ声も、雨音が掻き消す。
関節の色が白くなるほどの力でシーツを掴んでいる指の上から、
自分の手を重ねてみる。
エアコンが部屋を冷やす前に抱き合って、後ろから繋がって。
隊服でいても汗ばんでいるのを見たことのない背中がうっすらと
濡れている。
紺色の髪が汗で貼り付いている首筋に、軽く歯を立てた。
ベッドの横にある窓のガラスを流れ落ちる雨の軌跡を見ながら、
耳元で愛を囁き続ける。
ウソでもいい、と、清寿は云うけれど。
嘘なら云う必要が無い。

「イキそう。。。」

清寿の身体が引き攣った様に震えて、肘から崩れ落ちた。

「イケばいい。イケよ」

声だけは甘く。
口調は上から命ずるように。
細い腰を掴んで強く引き寄せて、最奥まで深く穿つ。

「やだ。一緒に。。。一緒にっ」

枕に押し付けた顔を左右に振ると、シーツの上に髪が広がる。
肩の下まで伸ばされた髪の匂いは、セックスで体温が上がると
更に強くなる。
普段は全く感じない体臭も仄かに立ち上ってくるようだ。

「笑太くんっ、なんで。。。」

清寿の言葉を遮るのは窓に当たる雨。
弱くなったり強くなったりして、ここ数日間降り続いている雨は
まだ止みそうにない。

「なんで。。。っ」

訊きたい事の想像はつく。

何故俺はお前を求めてしまうのだろう?

イラつく事があった時、抑え難い衝動に駆られて清寿を抱く。
理由を問われることはなく、説明をすることもない。
やや苦しげにだがただ微笑んで俺を受け入れてくれるお前を、
同じ罪を負う共犯者のように感じている。

「好きだからだよ」

肌と肌がぶつかる音がする。
粘膜が擦れ合って湿った淫らな音を立てる。

「ウソ。。。ばっか。。。」

鼻にかかったように聞こえる声は、下を向いて喘いでいるから
なのか。

「嘘じゃない」

云うのは簡単。でも、信じて貰うのは難しい。
いくら真実(ほんとう)だと繰り返しても、勘の良い清寿には
分かってしまうのだろう。

雨の日が苦手だったのは俺じゃない。
イラつくと説明もせずに俺を求めたのもアイツだった。
気が付くと時生と同じことをしている。。。
無意識にでも記憶に縛り付けられている俺が居る。

顎に手を掛けて顔をこちらへ向けようとしたら、拒まれた。
唇を伝って落ちてくる雫は涙だろう。
熱を持った頬がびしょびしょに濡れていた。

「笑太君のバカ。。。」

しゃくり上げて、声が途切れた。
達したようだ。
すぐに俺も達して、中に精を放った。

「清寿。ごめん」

息を整えてから振り返って、清寿が笑った。

「謝って赦されるなら特刑(僕達)なんて要らないね」

そんな風に強がっても、瞳は薄く潤んで細かく震えている。
見蕩れていた俺の頬に手を添えて、自分から唇を重ねてきた。
何度も角度を変え唇を貪り続けているうちに息が苦しくなった
ようで、口を離して荒い呼吸(いき)をついた。

愛したのが清寿でなければ良かった。

最悪の結末を迎えるまでの短い期間の記憶は消せなくても、
泣き叫んで愛してくれと云われればもっと必死になれる。
身体だけではなく心もお前にやれるのに。

「笑太君のこと、好きになって良かった」

ベッドに横たわり、清寿が静かに呟いた。
無言で見詰め返した俺の顔に、指先が、ふわりと軽く触れた。

「いつも傍に居られて、手を伸ばせば触れることが出来て。
それ以上望む事なんてない」

清寿も両親を殺された記憶に囚われているのだと気付き、
思わず漏れた嗚咽を突然激しくなった雨の音に紛らせる。

「。。。どうしたの笑太君?なんで泣くの?」

背中に腕を回して抱き締めて、細い肩に顔を埋めた。
髪に挿し入れられてきた手が、優しく頭を撫でてくれている。
雨音と清寿の鼓動と呼吸が同調して聴こえて、手のひらの
温もりと冷えてきた肌が心地良かった。

「僕は雨の日好きだよ。笑太君が僕を求めてくれるから」


―The end―






P.S.
本誌連載に第一部隊が
出て来なくなって長いので
萌えが尽きかけていて、
なんともじめっとした話に
なってしまいました。
梅雨だからって事で
お許しを。

笑太ピンとか式羽沙とか
じゃなくて第一の話が
読みたいな。。
10/07/08Thu.


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