―Needless To Say―


「よっ」

片手を上げて微笑んだ顔を見て懐かしいと思うなんて、
ずいぶん長い間会っていなかったみたいだ。

「いきなりどうしたの?先に連絡してくれたら何か。。。」
「今日さ、大切な話があって来た」

改まって何の話だろう?
嫌な予感がした。

「上がっていい?」

そう訊かれて我に返る。
コクコクと頷いて、部屋の中に招き入れようと身体を
壁側に寄せた時、伸ばされてきた手に腕を掴まれた。

「あ。。。」

引き寄せられてよろめいた先に広い胸があって。
抱き締められて顔を上げると、唇が近付いてきた。
目を瞑ってくちづけを受ける。
悪い予感を振り切るように、腕をその背中に回して
抱き締め返した。

「決めた」

唇がまだ触れそうな距離にあるうちに笑太君が云った。
何を?と訊くより早く、足元がふわりと浮き上がる。

「笑太君っ?!」

抱き上げられて、そのままドアの外へ連れ出される。

「え、ええっ!待って!!どこへ連れてく気!?」

がちゃり、と鍵を掛ける音がして、がちゃがちゃ、とノブを
数回回して施錠を確認すると、外廊下を歩き出した。

「清寿。黙って」

マンションの正面玄関の前に着いた時腕が弛められて、
すとん、と足が地面に着いた。

「黙らないとここでするぞ」

笑太君が真顔だったから云い掛けた言葉を飲み込んだ
瞬間、唇が奪われた。

「キスを、な」

にやり、と笑ったその表情(かお)は何を訊いても本当の
事を教えてくれない時の顔。
質すのを諦めて、なされるがままに手を引かれて歩く。

「帰ってきたばっかだったろ?」

その通り。
法務省から帰宅したばかりで、まだ着替えてもいない。
どこかで待っていてくれたのだろうか?
そんな甘い期待を抱いてしまう。
けどそれを口に出して確認するのが怖いと思うのは、
しばらく離れていたせいで君との距離感を失ったから。

「大人しいな。どうした?ん?」

顔を覗き込んできて笑った、その手をぎゅっと握る。

「本物。。。だよね?」

夜の街は知っているようで知らないような曖昧な暗さで、
現実感を失わせる。
ここに居るのは長期休暇中のハズの笑太君じゃなくて、
会いたいと思い過ぎて見てしまった幻かもしれない。

「本物だよ」

不思議そうな表情(かお)で、指を強く握り返してくれた。

「。。。なんで?」
「会いたくなかった?俺に」

なんでそんな風に屈託無く笑えるのだろう?
素直に答えるのが悔しくなるくらいの綺麗な笑顔。
でも強がりを云える余裕なんか微塵も無い。

「会いたかった。。。けどっ」

表情を読ませないように俯いて、髪で顔を隠す。

「頑張ってくれてんだろ?俺が居ない間」

耳元に温かい息が当たって肩を竦める。
耳朶に、優しく唇が触れた。

「悪いな。いつも迷惑ばかりかけて」

首を左右に強く振る。
横から差し入れられてきた指が僕の髪を掻き上げて、
すうっと、前に引かれた。
笑太君は手のひらに掬い取った髪に唇を近付けると、
さらさらと指の間から零した。

「笑太君」
「うん?」
「今日わざわざ来てしたかった大切な話って、何?」

目に力を入れているから睨んでいるような顔になって、
それを見て笑太君が困ったように笑った。

「ああ。それはもう、いい」

唇に、指が、触れて。

「いいって?!」
「清寿、今日何月何日?」
「4月1日?。。。!」
「嘘つくのを云い訳にして、顔を見に来た」

その指に指を絡めて、握り締めて、くちづける。
外なのに。
ここがどこだか分からないのに、自分が抑えられない。

「突然来てワケ分かんないことばかりして。。。」

首にしがみ付き、肩に顔を埋める。

「話したいこといっぱいあったのに、頭の中が真っ白に
なっちゃったよ!」

僕の背中をあやすように撫でながら笑っている笑太君
の背中を、怒ったように云いながら叩く。

「俺も真っ白になった」
「え?」
「お前の顔見たら、云おうと思ってた嘘、全部飛んだ」

身体を離すと手を繋がれて、再び歩き出した。

「清寿」

無言でしばらく歩いた所で笑太君が立ち止った。

「あそこが新しい俺んち」

指がさし示す先に目をこらす。

「前の家より近いだろ?」

歩いて数分の距離だからそうは思うけれどこんな状況
だったし、ここまでどう来たか全く覚えていない。

「少し片付いたから今度遊びに来いって誘おうと思って
たんだけどさ、会ったら我慢出来なくて拉致っちまった」

笑太君は照れ笑いを浮かべて頭をぽりぽり掻いた。
つられて、笑みを返す。

「やっと笑ったな」

見上げた視線を絡め取られて、見つめ合う。

「今夜は泊まってけよ。明日うちまで送ってくから」

返事をするより先に、自然に唇を重ねていた。


―The end―






P.S.
初めてにして約1ヶ月遅れの
エイプリルフールの話。。
書き始めたのが当日だったとか(汗

めちゃ忙しくて煮えてる時期で
甘〜い話が書きたくなって。。
そんな感じで書き始めたような。
本誌連載璃宮のターン中の
第一不足を自給自足←

全く同じタイトルで別館に
煮え煮え〜な柏原班長の話有り。
そちらはこの話の前日の話
という設定です。
10/04/28Wed.


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