―そんなに泣かないでください、理性が保たなくなる―


法務省の中庭で膝を抱えてコッソリ泣いている後ろ姿を見付けた
時は、ちょっとだけ、笑太君の気持ちが分かった気がした。

ちょっとだけと断ったのには理由が有る。

視線に気付いて振り返った上條隊長は、迷惑!と云わんばかりに
僕を睨みつけたからだ。

「お疲れ様」

鈍いフリをしてわざと微笑み掛ける。

「。。お疲れ様です」

律儀に返事が返ってきたのに驚く。

「上條隊長、何かあったの?」

隊員の管理も副隊長の仕事のうちだから理由を訊くのは当然の
義務。。みたいな顔をして尋ねてみる。

「いえ。何でもありませんっからっ」

涙をいっぱいに溜めた瞳で精一杯の虚勢を張る姿に、そこがヤツ
の可愛いとこなんだよ、と云っていた笑太君の笑顔を思い出す。

可愛い。。?

その時はピンと来なかったけれど、色違いの瞳がキラキラして、
目の回りが淡く赤く染まっていて、お肌ツルツルで髪クルクルで。。
確かにそうかも。

足音を潜めて近付いて、しゃがむようにして横から顔を覗き込んだ。

「なっ!何するんですかっ?!」

いつに無くリアクションが素直。

「なんで泣いてるのかな〜?って思って」

膝の間に顔を埋めてしまった。残念。。

「貴方には関係ありませ。。」

「笑太君の事なら僕にも関係あるよ」

顔を上げて云い掛けた言葉を遮られて、血の気が引いてゆく唇を
噛み締めている。

「貴方になんか絶対に。。っ」

負けませんから!!

声にならない叫びがそう僕に告げる。

うん。解った。
笑太君が云ってたことの意味が。

プイッと横を向いた頬にポロポロと涙が伝って。。ちょっと弄りたくなる
可愛らしさ。

「そんなに泣かないでください、理性が保たなくなる」

耳朶に鼻先が付く程に近付けて、くちづける様に囁く。
耳を押さえてとっさに飛び退いた、その運動神経に感心。

「式部隊長っ!なっ、何する気ですか?!」

でも僕も反射神経には自信がある。
手と膝を付いて後ずさる身体を追い掛けて、熱を持っている頬に
そっと触れる。

「やめ。。ッ」

振り払おうとした腕が僕の手首に当たって、カフスに仕込まれた
ワイヤーの硬さにハッとした顔が愛しく感じて。
伸び上がるようにして強張った頬を舌でペロッと舐める。

「やだっ!唇は。。」

「しないよ。そこは笑太君のものなんでしょう?」

ふっ、と、時間が止まった様に、上條隊長の動きが止まった。

「それっ、なんで。。っ?」

「笑太君が待ってるよ」

虚を突かれたような、警戒心が全く無くなった表情は天使のよう。

「貴方のことを。。ではなくて?」

強がるのを忘れた君は本当に無垢で。なるほど笑太君、ちゃんと
見る目あるんだ。

「上條璃宮くん、君のことを」

この前の日曜日、ホワイトデーに君に何を返せば喜んで貰えるか
悩んだ末に、僕を連れて買い物に行ったところを偶然見てしまった
からって。
さっき更衣室で、いつもみたいに元気出せよって僕の頭を撫でて
いるのを見てしまったからって。

それで焼きもち妬くなんて、なんて可愛いんだろう。

僕はどちらも気付いたけど笑太君は気付いてなかったから、今頃
正面玄関辺りで普通の顔して君を待ってるハズ。。

「早く行かないときっと後悔するよ」

僕の一言で弾かれた様に立ち上がり深々と一礼してから駆けて
ゆく背中を、微笑みながら見送った。


―End―






P.S.
彩音様主催のホワイトデー企画へ
提出した話のひとつ。
お題がそのままタイトルになってます。

璃宮贔屓のサイトさまだったので
笑太×璃宮という設定で。
道端で泣いてるりっくんを
清寿がからかっている話。

実はこんなに泣き虫じゃないよな。。
などなど反省点多数。
りっくんファンの方どうもすみません。。
10/04/15Thu.


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