uNdER ThE rose <another side2>


side S.


携帯への着信に気付いたのは、それが切れる直前だった。

枕元に放り出した携帯を探り出し、画面に残る履歴を見て
溜め息をついていたら、清寿の携帯が鳴った。
枕に横顔を埋めるように眠っていた清寿の肩が毛布の下で
動き出すより早くその携帯を、腕を伸ばして取り上げる。

「もしもし」
『お。笑太か』

電話の向こうで五十嵐が驚いたような声を出した。

「どうせ監視(み)てんだろ?ヘタクソな演技はいいから。
用件は?」
『ははっ手厳しいな。だが2人一緒に居るなら話が早い』

清寿が寝返りを打ってこちらを向いた。
その頬に指を伸ばしてそっと撫で、顔に掛かっていた髪を
後ろへ流してやる。
その時だけ瞳が閉じられて、そこに映っていた俺の姿が
消えた。

『至急部長室へ。この前お前達が偶然立ち会った例の
殺人事件の事案がこちらに回されて来た』

そう。あれは偶然の出来事。
あの時俺達は、全く別の事件に関わっている死刑囚を
追っていた。

「例の。。。」

逃亡中だったそいつを追い詰めて処刑した廃工場の片隅に
偶然、周囲に薔薇の造花が散らされた変死体を発見した。
まるでそれを見せたかったからそこへ逃げ込んだように見えた
死刑囚が実はそちらの殺人には全く関わっていないことが、
その後の警視庁の捜査で判明した。

『とりあえず急いで。。。』
「分かったよ」

五十嵐の言葉を途中で遮って隣に目を遣ると、清寿がベッド
から起きたところだった。
裸の後ろ姿が夜目に仄明るく見えて、目線を天井に逸らす。

「。。。清寿」

通話を切って上半身を起こす。

「なに?」

ジーンズを履く、細い腰を見詰める。

「いや。呼んでみただけ」
「変なの」

長く伸ばした藍色の髪が揺れて、肩や背中を滑り落ちてゆく。

「ぼんやりしてないで早く着替えて」

シャツを羽織って振り返ると呆れたように笑って、俺の目の前に
服を投げて寄越した。

「一刻も早く笑太君の身の潔白を晴らさなきゃいけないんだから」

そう云いながら一瞬泣きそうな表情(かお)をした清寿に向かって、
手を差し出す。

「清寿。もし本当は俺が殺ったんだとしたら」
「それは絶対に無い!」
「けど。。。」

シャツのボタンを留めていた手を止めて駆け寄ってきて俺の腕を
握ると、真面目な表情で云った。

「自分を信じて。そして、僕のことも、信じて」

その手を逆に引き寄せて、肩に腕を回して耳元で囁く。

「そう、だな。。。」

一瞬強張った身体が解けるように、すがりついて来た。
その肩が細かく揺れて、膝の上に温かい雫が落ちる。


その殺人があった晩、俺には空白の時間がある。
前日完徹だったから流石に疲れていて真夜中に、数時間だけ
清寿達と別行動をした。
その間、別室で寝ていた。。。と思う。
思う、というのは記憶が曖昧だからだ。
眠ってたんだから仕方無いよ、と、清寿は云う。
しかし本当に俺は眠っていたのだろうか?
その時俺は、時生が完全に壊れてしまう前に云っていたことを
思い出していた。


眠ってるなんて思ってるのは自分だけかもしれないね。
目覚めたら両手が血飛沫で汚れていた。。。
そんな朝もあるような気がするんだ。


その時は何かの比喩かと思った。
いつもみたいに薄笑いを浮かべていたから。
だから瞳の奥に澱む暗い影にも気付かずに、ただ笑い飛ばして
しまった。

「お前はきっと笑わないんだろうな」

例えば俺が正気と狂気の間を彷徨うようになって、救いを求める
ように冗談めかして告白しても。
その大きな瞳でちゃんと真実を見抜いてくれるだろう。

「笑太君。。。?」
「や。なんでもない。そろそろマジで急がないと叱られる」
「あっ、そうだった!」

清寿は背筋を伸ばすと慌ててシャツのボタンを全部締めてから、
俺のに手を伸ばしてきた。
自分で出来るからいいよと、云い掛けて開いた口を手で塞がれて、
言葉を飲み込む。

「僕は笑太君のこと、信じてる」

そう云う清寿の顔に浮かんでいたのは、まだ云えずにいる自分の事
まで全部見透かされてでもいるような、とても綺麗な微笑みだった。


―continue to Finale.






P.S.
自分の中だけにあって
傍に居てくれる人にも明かせない
笑太が抱える大きな“秘密”。

清寿は第一に入隊してかなり早い時期に
三上さんや五十嵐さんから
笑太に何があったかを聞いていた様な
そんな気がするのですが。。
知っているが故の優しさ。
それを悟られまいとしての必死。
それが清寿の抱える“秘密”。

まだ他にも秘密はあって。。
この話は続きます。
UPの間隔が空いてしまって
すみません(汗
10/03/21Sun,


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