―DEVIL'S SWEETS VALENTINE―


「はい!どうぞ」

副隊長が切り分けたチョコレートケーキに一斉に群がるのは天下の
総隊長と諜報課のトップ集団と云われる第一班という面子。

「総隊長は他からも沢山貰えるんだからちょっと遠慮して下さい」
「それとこれとは別。世の中弱肉強食なんだよ」
「。。その理論、分かりません」
「諜報課一班ならこのくらい解れって。おい羽沙希!ぼんやりしてると
無くなんぞ。食うなら食え」

浅ましい争いを遠目に眺めて溜め息をついていたら、紙皿に乗せた
一切れが俺の前に差し出された。。

副隊長の笑顔付きで。

「柏原班長もどうぞ」

揃えた両方の手のひらの上に乗った皿からは甘ぁい香り。
目を細めて軽く首を傾げて笑った副隊長からも同じ匂いがした。

「時々チョコバー食べてたりしてるから。。チョコ好きだと思ったんだけど」

その一言に、どきっ、とする。

チョコバーは捜査が佳境に入った時や死刑囚の追跡中等で手が
離せない時にしか食べない非常食で、たま〜にしか口にしない。
それを見て、覚えてた?

「うん。まぁ。好き、だけど」

いつも総隊長ばかり見てると思っていたのに、俺のことも見てた。。?

「これ、何て云うの?」

皿を受け取る時に指先と指先が触れて動揺して、咄嗟に出たのは
そんなどうでもいい質問。

「Devil's Cake」
「え?悪魔??」
「そ。悪魔のケーキ」

肩を竦めるようにしてふふっと笑う様子からは、任務遂行中の
冷酷な姿は想像出来ない。

「悪魔に魂を売ってでも食べたくなるケーキ、って云うケーキ」

もし悪魔が実在するとしたら副隊長みたいなのかもしれない。。

「。。?」
「。。!」

ぼんやりと見ていたら見詰め返されて、慌てて一切れ頬張る。

「んまい!」

本当に旨くて思わず出た一言で、副隊長の顔に満面の笑みが
弾ける。

「ほんと?」

ぶんぶんと頷きながら、食べ続ける。

「バレンタインに僕なんかからで申し訳ないなぁって思ったけど
作ってきて良かった〜」

これを女性から貰ったら絶対に惚れてる。
副隊長からだから。。理性が保てる。

「義理チョコってことだもんな」

総隊長の傍に戻った副隊長が、まるでその呟きが聞こえたかの様に
振り返って鮮やかに微笑んだ。

「ホント。。笑ってばっか」

いつでも。誰にでも。
なんだろうこの落ち着かない感じは。
目を逸らせて空になった白い紙皿の、こげ茶色の汚れに視線を
落とす。

「柏原班長。これ」

呼ばれて視線を上げると目の前に副隊長の顔。
目線の高さまで持ち上げられた片手の上には綺麗にラッピング
された箱。

「。。これ。。?」

もしかして本命チョコ?
なんでこんなに心臓バクバクしてんだよ!?
どうした柏原謙信!!

「あと、これも」

最初の1個を受け取った手の上に同じ箱がもう1個。。?

「流石に任務完了報告の時には渡せないから、後で報告書を
出すついでに三上部長と五十嵐課長に渡して。お願いっ」

心拍数、一気にダウン。
なんか妙に冷静になった。

「総隊長には?みんなと一緒のでいいの?」

今日見た中で一番嬉しそうな笑顔が返ってきた。

「昨夜別のを渡してあるから」



。。本当に悪魔かもしれない。


―The End―






P.S.
DEVIL'S CAKEは
実在するケーキです。
チョコたっぷりでレシピは簡単な
アメリカンケーキ。
悪魔の誘惑の様に美味しく
そしてカロリーが高いそうで(笑

柏原班長の一人称なのに
全く報われてないという。。
残念なバレンタインの話。
10/02/06Sat.


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