―Christmas Eve―


笑太君とケンカをした。。。
本当にちっちゃな事で。
意地を張られて意地を張って。
昨日の晩からまともに話していない。

「副隊長〜。っんな顔してるくらいなら先に謝っちゃえばいいのに」

柏原班長に話したら、軽〜くそう云われた。
それが出来ればいいけど出来ないからこうなってるんだよ。
羽沙希君まで気を遣って、御子柴隊長は?なんて僕に訊かない。

笑太君は今日ずっと部長室にいて、総隊長の仕事をしてる。

どんな事をしてるか良くは知らないけれど、年に数回こんな日が有る。
その間僕達は待機で、任務が回ってくるまでは何をしていて良い。
書類仕事や諜報課の仕事を手伝ったりしてはいても、いつもと違って
緊張感が無いからつまらない事ばかり考えてしまう。

「溜め息ばっかついてるんだったら帰れば?」

壁に掛かった時計を顎で指して柏原班長が呆れた声で云う。

「勤務時間、もうとっくに終わってるよ」

見ればもう1時間も過ぎていた。
いつの間にか時間って経ってしまうんだね。。。

「羽沙希君ごめん。全然気が付かなくて」

口を真横に結んで羽沙希君がふるふると首を横に振る。
戻ってくる気配の無い笑太君は置いて先に帰ろう。

「あ、そうだ。副隊長」

呼び止められて振り返る。

「メリークリスマス。早く仲直りしなよ」

PCのモニターを見詰めたままの柏原班長の思い遣りが心に痛い。

「あ、そっか。。。メリークリスマス。今夜は帰れますようにって祈ってて
あげるね」

溜め息に近い苦笑を背中で聞きながら、諜報課を後にする。
更衣室では無言で着替えて、帰って行く羽沙希君を見送って。
僕も外へ出た。

夜空はどんより曇っていて、顔がひりひりするくらい冷え込んでいた。

「雪でも降りそうだな。。。」

笑太君とはちゃんと付き合い出す前から途中まででも一緒に帰る
のが習慣になっていたから、隣に居ないと余計に寒く感じる。

ひとりで帰るのってこんな感じだったっけ?


朝から顔を見ていない。
声も聞いていない。
謝って。。。ない。


考え事をして歩いていたから背後に他人(ひと)の気配を感じて反応
した時には遅かった。
後ろから首に布の様なモノが巻き付けられてフリーズする。

「わ。。。っ?!」

ヤバっ!と焦ったけれどそれはそれ以上締め付けられる事も無く。。。

「マフラー。忘れてんぞ」

聴き慣れた声がして。

「。。。忘れたんじゃなくて、わざと置いてきたんだよ」

後ろから回された腕が僕を抱き留めた。

「笑太君、今朝くしゃみばっかりしてたから」

耳元で、優しく笑う息。

「だから俺のロッカーに突っ込んであったのか!」

耳朶に柔らかく唇が触れる。

「追って来いって意味だと思った」

ぐるぐる巻きにされたマフラーで、真っ赤に火照った顔の下半分を隠す。

「そんなつもりじゃなくて。。。っ」

横を向くと間近に笑太君の顔があって、言葉に詰まった。

「ははっ。良く考えればそうだよな」

腕が解かれて温もりが遠去かる。

またひとりになる。。。
そんな予感に胸がきゅんと痛んだ。
ケンカの原因が何だったかとか。
どっちが悪いかとか。
そんな事もうどうでもいい。

謝ろうと思った時、笑太君が先に口を開いた。

「試されてんのかと思って」

振り向いて、きょとん、と見詰め返す。

「試す?」

今度は前から抱き締められた。

「またひとりになるのは嫌だって、バカみてぇに焦っちまった」

そう云う笑太君の、丸まった背中に腕を伸ばす。

心に持つ深い孤独を癒すことは出来ないけれど、
傍に居ることは出来る。
ひとりで残されるのが怖いのは僕だけじゃない。

「ごめん」

笑太君が云う。

「僕こそ。。。ごめん」

笑太君の身体を抱き締める。


願わくは。。。
君より先に僕が死ぬことが無いように。
僕を残して君が死んだりしないように。


矛盾する祈りを今年も心の中で唱える。
こうやって共に生きていけることが幸せなのだから。
この温もりよりも欲しいものなどこの世界には存在しない。

「帰るか」
「うん。帰ろ」

星が降るように、暗い空から雪が舞い始めた。


―The end―






P.S.
甘〜い話にしようと思ったのに。。
多分この後。。甘いんですよ(汗

今年はあまり流れてませんが
山下達郎の『Christmas Eve』の
イメージで。。あ。だから
切ない話になっちゃったのか!?
09/12/18Fri.


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