uNdER ThE rose <another side>


その現場には鮮血の様に、真紅の薔薇の花びらが散っていた。

「これ。。。本物?」

発見された死体は死後数日経っていて腐乱し始めているのに、
そこに散らばる花弁は瑞々しくて、つい先刻もがれたばかりの
様に見えた。

「良く見てみろよ、清寿」

御子柴が床に膝をついてしゃがんだ。

「造花だ」
「じゃあ、偽装工作?」
「だろうな」

死体の上から花弁を一枚拾い上げ、眉を顰めて元に戻して立ち
上がり、隊服の裾を叩いた。

「左胸部を一発で。。。手馴れてるね」

式部が自分の左胸に人差し指を立てて当て、銃を撃つ真似を
して呟くと御子柴はとても嫌そうな表情(かお)をした。

「凶器はかなり口径の大きな銃だ。そう例えば。。。」

一旦言葉を切り、ゴクッと音を立てて唾を飲み込んで御子柴は
続けた。

「デザートイーグルの様な」



side S.


「笑太君。顔色悪いよ」

現場から帰ってくる前から気になっていた。

「。。。や、別に。何ともない」

口元に浮かんだ笑みは硬く、それが嘘なのは一目瞭然だった。
ただ、何も訊いて欲しくないという空気だけは分かってしまい、
問い質すことが出来なくなる。

「清寿」

更衣室のロッカーを開け着替えようと中を覗き込んだところで
呼ばれ、扉越しに笑太君を見る。

「シャワー」
「浴びて帰る?」

頷いただけで僕の腕を掴んで歩き出す。
こちらを見ようとしない思い詰めたような顔がとても気になる。
その横顔を盗み見て、心配することしか出来ない。

「あ。すまない」

やっと僕を見てくれたのはシャワー室に着いた時。

「痛かったな」

指から力が抜けて離れかけた笑太君の右手を今度は僕の
方から握り直す。

「ううん、ダイジョブ。笑太君こそ。。。」

空いていた片手で後ろ手にドアに鍵を掛けながら、強張り
の残る顔を真っ直ぐに見据えた。

「ホントに何ともないの?」

物云いたげに瞳を曇らせると、笑太君の左の手のひらが
そっと、僕の顔に添えられた。
でも。何も云ってくれない。

「笑太君。。。?」

指先がおずおずと、僕の頬と唇を撫でてゆく。

「僕じゃ。。。ダメ?」

追いつこうと。
それが無理ならせめて並んで歩けるようになろうと。
必死で、夢中で、頑張ってきたこの数年間の努力を否定
されてもいいから。
自分を愛することすら恐れるくらい、笑太君の心の奥に深く
刻まれた罪の意識を赦してあげたい。

秘めてきた想いが許されない衝動に負けて溢れ出す。

「僕じゃ笑太君を支えることは出来ない?」

固く食い締められた唇の横のほくろに伸び上がるようにして
くちづけて、両腕で頭をふわりと抱いた。

「笑太君はまだ狂ってなんかいない」

腕の中で笑太君がすぅっと深く呼吸(いき)を吸い込んだ。

「。。。本当に?」

髪からは、硝煙のにおいがした。

「今日の死体の死亡推定時刻は3日前で、その日の前後は
徹夜の任務が続いてて、ほぼ一日中僕や諜報課一班と一緒
に居たじゃない?」

赤茶色の柔らかい髪に指を梳き入れる。

「そう。。。だった、な」
「そうだよ。凶器だってデザートイーグルとは断定されてないし」

腰に回された腕がぎゅっと僕を抱き締めた。

「違う。犯人は笑太君じゃない。僕が保障する」

笑太君の心に傷を残したあの人は徐々に正気を失ってゆき、
最終的には死刑囚と同胞とだけじゃなく、一般人との区別さえ
もついていなかったのではないか、と五十嵐課長から聞いた。

「本当。。。に?」

掠れた声が肌の上を滑って鼓膜を震わせる。

「僕が見ててあげるから」

こんな状況なのに昂ぶってきた欲情を抑えきれずに息が
あがって声がザラついた。

「笑太君が発狂した時は僕が殺してあげる。だから。。。!」

荒々しく唇を塞がれると、舌で咽喉の奥までまさぐられた。
自分から口を開いて舌を絡め返し、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。

「僕のこと認めて」

脱がされた隊服が足元に落ちて。
笑太君の裸の胸に抱きついて囁く。

「僕のこと。。。好きになって」

シャワー室には監視カメラもマイクも無い。
だからこれは秘密の告白。

「んっ。。。」

甘ったるい声が零れて、笑太君の息にも熱がこもる。
身体だけなら何度か重ねた。
けれど今は心ごと繋がりりたい。

「笑太く。。。んっ」

本当は笑太君が暴走したら止められる自信は無い。
誰よりも脆くて、強いひと。
僕を殺した時に正気に戻ってくれたらいい。
そのくらいしか僕には出来ないから。

誰にも。。。笑太君にさえ云えない自己満足の願望。

「清寿。。。」

その声で呼ばれると身体の中がアツくなる。
今までも。これからも。
生死を賭けてまでずっと傍に居たいと思うひとには一生に
一度しか出会えない。

「俺が俺じゃなくならないように捉まえていてくれる?」

言葉で答える代わりに、背中から肩に回した腕に力を
込めた。


―continue to side M.






P.S.
秘められた願望=“秘密”が
主題の話。。

2009冬コミで発行した合同誌
『under the ROSE』の
ボツ原稿を修正したもの。
重いかなぁ。。と思って。。
もちょっと可愛い感じの話を
本の方へ載せてあります。
そちらが評判良かったので、
こちらもUPしてみました。

続きは笑太目線で。。
10/01/24Sun.


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