―Perfect Crime7. cloudy memorys


無線から聴こえるのは耳障りな、ノイズだらけの音声。
『そ。。。も。。。そこ。。。あ。。。はずな。。。け。。。』
柏原の声が意味を成さない暗号になって、こうなるとむしろ外界の
余分な騒音を遮断してくれる。


――呼び出されて。


昨日清寿に会った時、その言葉が耳に残ったのは、疑問に思った
から。。。だけではない。
奇妙なことに、それがある記憶と重なったからだ。

あれはいつの事だった?


「へぇ。“その他”」
「珍しいでしょ?」
その日の任務は一件で、昼過ぎには待機となった。
「隊員と養成所の上級生とを合わせてもその他なんて片手の指で
数えられるくらいしかいないんだから」
職員食堂で向かい合って、遅い昼飯を食べていた。
「だからって新人が副隊長を呼び出すってど〜なんだよ?」
俺の顔を目を丸くして眺めてから、清寿は破顔した。
「呼び出しって云うか、一度訓練をみて欲しいってお願いされただけ
だよ」
苦言も届かないくらい、無邪気な笑顔。
「銃器か刃物類を選ぶだろ、フツーは?」
清寿はパスタが巻き付いたままのフォークの先を俺へ向けて、同意
を示すように振り回す。
「そうそう!銃や刀だったら教官や他の人に教えて貰えるけど、
その他の武器使いは何から何まで自分でしなきゃならなくて大変
だから、あんまり選ばれないんだよ」
隊員の中でも唯一のワイヤー使いである清寿は、ワイヤーの準備
からメンテナンス、訓練まで全部ひとりで行っている。
「変わりもんだな、そいつ」
あまりに嬉しそうなので、からかってみたくなった。
「それ、僕の事も云ってんの?」
くすくす笑って、軽く流された。
「でもそいつの武器はワイヤーじゃないんだろ?」
味噌汁を啜って、肉じゃがを突付く。
「うん。違うみたい」
呑気な返事に拍子抜けして顔を上げ、パスタを頬張っている清寿
に訊く。
「みたい?」
口の中の物を咀嚼して飲み下してから、笑顔と共に答えが返って
きた。
「僕に憧れてワイヤーにトライしてみたんだけど、今は諦めて他のに
したんだって」
「他の?ワイヤーに似てるモノって。。。?」
怪訝そうな俺を見て、悪戯っ子のような表情(かお)で笑う。
「そ。何だと思う?」
そんな笑顔で訊かれても、分からないものは分からない。
「分かんねぇよ」
箸の先から皿の中にじゃがいもの欠片が落ちて、舌打ちする。
「えへへっ。ホントは僕も知らないんだ。午後から行ってくるから僕が
戻って来るまでに考えておいてね」
「俺には関係ないじゃん」
云い捨てて、飯を頬張る。
「関係あるよ!どんなに下位部隊でも隊員の事はちゃ〜んと把握
しとかなきゃなんじゃないの?御子柴総隊長」
笑って云うから、嫌味に聞こえない。
「第何部隊だって?」
「え〜っと。。。四十二?」
「覚えてないのかよ?バッカ。俺のこと云えねぇじゃねえか」

。。。あれは一年くらい前のこと、だったかな?


『総隊長!聞こえてる??』
突然クリアになった無線からの声が、耳に刺さる。
「柏原〜、聞こえてるからそんなに大きな声出すなよ。。。」
無線の向こうで軽く笑う声。
『ははっ、ごめん。反応無いから聞いてないかと思って』
風向きが変わったので上方を見ると、天井が崩れ落ちていた。
だから無線が急に通じるようになったのか。
『そこら辺にある筈なんだけど。。。周り、見渡してみて』
立ち止ってみたが、何を探したらいいかの説明が無い。
「何が?」
『電波の発信源』
清寿の携帯か。
「あった」
天井だけじゃなく壁も柱も崩れかけた瓦礫だらけの部屋の隅に
見慣れた携帯電話が落ちていて、細心の注意を払って近付き、
拾い上げる。
正確には、不慮の事態で転がったのではなくてわざと放置された
様な印象。
「これ以上は追ってくるな。。。ってことか」
何年も一緒に居れば、云われなくても伝わるところがある。
性格を知っているからこそ分かり易く、逆に分かり辛い。
「何考えてんだよ、バカ清寿」
俺に助けを求めたんじゃなかったのか?
これじゃお前を見付けられない。
清寿が被疑者となった日から途切れずに有る悪い予感が、
胸の中で疼く。
「柏原、そのままこの携帯の位置を追尾しててくれ」
鋭く舌打ちして、携帯をポケットにしまう。
「一旦無線、切るぞ」
『え?!』
「清寿を追う。無線での連絡は危険だ」
柏原からの返事を待たずに無線を切り、インカムを外す。

夜明けも近いというのに暗い空には星も輝いていて、明るくなる
気配すらない。
深く息を吐いてから目の前に広がる暗がりの中へ入って行く。
清寿へと繋がる唯一の目印は、所々床の上で光っているワイヤー
の切れ端。
これだけを信じて進むしかない。


暗がりの中から見た室内は、鮮血の色に染まっていた。


「清寿っ!!」
闇と同化する色の髪が広がって、その隙間から紫の瞳が覗く。
「。。。!笑太君っ、そこで止まってっ!!」
そう云われる直前に聴こえた銃声に反応して、咄嗟に立ち止って
身を伏せる。
立ち込めた埃で曇った視界が晴れてくると、部屋の中央に佇む
清寿の姿と、たった今首を切られて頚動脈から多量の血飛沫を
噴き出しながら崩れ落ちる元人間の残骸が在った。
「笑太君。もう出て来てもいいよ」
清寿が俺が居る方を見て、落ち着いた声で云う。
「ひでぇ臭いだな」
充満する腐敗臭と酸臭、加えて血液と硝煙の臭い。
「追って来ないでって行ったのに。。。危く撃たれるところだったん
だからっ」
そう云って睨む清寿は、昼間会った時と同じ服を着ていた。
「四十二部隊は?」
苦言が聞こえていない訳ではないが、確認が先だ。
「今のが最後のひとり」
さらりと答えて、微笑みもせずに俺を見詰めた。
「他のふたりは殺害されてる。少なくとも数日前に」
視線を合わせたまま、清寿の次の言葉を待つ。
「この死体の状況だと、失踪して直ぐに殺されてたと思う」
「。。。第四十二部隊の失踪事件を、何で知ってる?」
清寿は嫌な表情(かお)もせずに、足元に転がっている、隊服を
着た2体の腐乱死体へと視線を落とした。
「失踪が発覚したのはお前が自室に監禁されてからだ。
外との接触が断たれていた筈なのに、何故お前がそれを知って
るんだ?」
俯くと前髪で表情が見えなくなる。
「清寿。答えろ」
僅かな間があって、清寿の肩が細かく震えた。
「。。。?」
俺を見た瞳は潤んでいて、腹を抱え声を上げて笑い出した。
「な〜んだ、そこから〜っ?!そこは簡単なんだけどなぁ!」
目尻に溢れた涙を血で汚れた指先で拭くと、肌に汚れが移った。
「羽沙希君に教えてもらったんだ。明日から捜索するハズだった
んでしょ?柏原班長が渡した捜査資料持ってたよ」
あっけらかんとした答えに、言葉を失う。
「じゃあ知ったのは。。。?」
「昨夜。普通〜に電話して訊いた」
羽沙希には極秘資料で他言無用だと説明してあったが、清寿に
訊かれれば答えるのは当然のことだ。
「何でそんな事を。。。?」
次の疑問は笑い声に掻き消された。
「そんなのにも気付かないなんて、笑太君らしくないね」
そんなに笑う事ないじゃないか、と思うくらい爆笑し続けた清寿が、
崩れるように床に膝を付いた。
「清寿。。。?!」
前に倒れかかった身体を、駆け寄って支える。
「この臭い。。。気持ち悪いし。。。安心したら眠い。。。」
片膝をついて抱き寄せた。
「ね。笑太君」
腕に掛かる重みが徐々に増してくる。
「何だ?」
口元に、淡く笑みが浮かぶ。

「このままなら眠れそう。。。だから。。。傍に居させて。。。」

ことっ、と、子供が眠りに落ちるみたいに、清寿は意識を失った。
「。。。っんだってんだよ。。。」
ポケットからインカムマイクを取り出して、無線で柏原を呼ぶ。
『あーっ総隊長!!実はついさっき連絡が来て。。。!』
待ってましたとばかりに、柏原が一気にまくしたてる。
「。。。はぁっ!?清寿の容疑が解けた?」
説明の歯切れが悪いのは、柏原自身が事態を充分把握しきれて
いないからだろう。
「それよりさ、今俺が居るとこに処理班寄越して」
不機嫌な声で云って、清寿の身体を抱え直す。
「死体?有るよ。第四十二のと。。。他にも数体」
顔の汚れを拭いてやっても、熟睡していて起きる気配が無い。
「清寿の身柄を保護したから、連れて帰る」
帰り道分かる?ナビしようか?と訊かれたが、不要と答えて無線
を切る。
光源の無い廊下は迷路の様だったけれど、拾わずに置いてきた
ワイヤーの切れ端を辿れば入口まで戻れるだろう。
「人の気も知らねぇで。。。起きたら問い詰めてやるからな」
立ち上がり、歩き出す。

腕の中で眠る清寿の顔は、穏やかに微笑んでいた。

― on early morning of September 22.


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P.S.
急速に物語は収集へ向かう。。
ごく当たり前の事が思い付かないのは
動揺している証拠。

ワイヤーを切って落としてゆくのは
難しいんじゃないの?とか
切っちゃっていざという時武器に
なるのか?等というご意見は
この際置いといて(汗
(一巻読んで乾もそう思いましたけど。。)
09/10/18Sun.


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