―Perfect Crime6. disturbance


真夜中の携帯への着信は、出る前から嫌な予感がした。

『第四十二部隊を捕捉』

手で覆って喋っている様な声で一言そう告げると、切れた。
公衆電話を使わなかったのは、追いかけて来い、という事か。
「。。。っんの、バカがぁ」
ガリガリと頭を掻きながら、柏原に連絡を入れる。
『こんな時間にどうしたの〜?』
呑気な口調の眠そうな声に、少し苛立つ。
「モニター、見て。清寿んちの」
話しながらも起き出して、クローゼットから服を引っ張り出す。
『副隊長の家の?。。。アンタが帰った時と変わりないよ』
変わりが無い、と云うことは。。。
「清寿は?」
『まだそのまま、床の上に髪の毛が見えてて。玄関の所で寝てる
みたい。。。だけど?』
なるほど、そういう手を使ったか。
「なぁ。そこで清寿の携帯の位置、追える?」
ゴクッと唾を飲み込む音と、カチャカチャとPCのキーボードを打つ
音が聞こえてきた。
『。。。動いて。。。っるんだけど!!どーゆーこと?!』
「そのデータ、こっちに送って」
柏原の返事を待つまでも無く、それに答えている余裕も無い。
『総隊長〜っ、ワケ分かんないよ。説明して!』
乱暴に顔を洗うと急いで着替えて家を出る。
「清寿が、失踪した第四十二部隊を追跡してるらしい」
任務専用の携帯端末に逐一転送されてくるGPSのデータを
目で追いつつ、街路を走る。
『あぁ〜?なんで副隊長がこの件知ってんの??』
「とりあえず清寿を追え。見失うなよ」
通話を切って、清寿に追い付くことに集中する。
この軌跡の先を予測すると、数分後には第五セクターに入る。
完全にスラム化したエリア内に入ってしまったら、いくら清寿でも
自分の身を護り切れるかどうか分からない。
それにあの無秩序に増殖している地下街やビルの中では携帯の
電波が通じない場所も少なくない。
「無茶ばっかしやがって。。。!」
清寿に最後に会ったのは、昨晩家に送り届けた時。
その時見せた覚悟を決めた様な笑顔は、強がりだと思っていた。
ドアが閉まる瞬間に唇に触れてきた指の冷たさと「大好き」という
言葉だけを遺して、俺の前から消えようとなんてしてないよな?
焦る俺の胸ポケットで、唐突に携帯が震えた。

『笑太君、来ないで。。。っ』

やっと聞き取れる程の声で囁かれた一言。
それで通話は途切れて、位置を示す光点も止まった。



「―――第四十二部隊は以上の3名で構成される」
清寿の位置を示す点が動かなくなってから、小一時間経つ。
「失踪時は全員隊服を着用、フル装備であったと考えられる」
携帯があると思われるのは、第五セクターのとある廃ビルの中。
と、云っても、このビルに関する情報が正しいかは分からない。
建物の使用目的や内部構造は、その後に加えられた違法な
改装等で変わっているかもしれない。
それにそこに清寿が居るとは限らず、罠の可能性も高い。
「任務直後の失踪で、諜報課四十二班がそれに気付いたのは
任務完了より30分以上経過しても部隊が帰還しなかったから。
そして事件発覚と同時に緘口令が敷かれ、外部への情報流出
を防ぐと共に即行で一班に話が回ってきた、という流れ」
後から追い掛けてきた諜報課一班のバンに拾われて清寿が
入って行ったかもしれないビルが見える所で待機しているのは、
その身に危険が及ぶのを回避する為だ。
「。。。総隊長、俺の説明聞いてる?」
視線を下げると柏原が不満そうに口を尖らせていた。
「ああ。聞いてる」
腕を胸の前で組んで俺を見上げて、深く息を吐く。
「副隊長が心配なのは分かるけど、とりあえず戦うことになるかも
しれない相手の情報は知っておいた方が良くない?」
「。。。分かってるよ」
モニターに映る周囲の様子を窺いながら、柏原が機転を働かせ
て預かってきてくれたデザートイーグルを、腰の左右に装着した
ホルターにしまう。
「ね、総隊長」
「ぅん?」
柏原が探るように俺の顔を凝視して、云った。
「第四十二部隊の隊員って、会ったら分かる?」
「いや。そんなに下位の部隊となると直接会う機会はほとんど
無いから、名前も顔も覚えてない。って云うかさ、隊員全員の
顔と名前なんて一致しねぇよ」
「そりゃそうだよね。欠員があるとは云え大所帯だから」
柏原が腕と足を組み直した。
「会うとしたら廊下で擦れ違ったとか、地下の訓練場に居たとか、
そんな感じかな。俺らは公式行事の時は挨拶なんかもするから、
こっちの顔は知ってるだろうけど」
俺の返事を聞いて柏原は、ふ〜ん、と低く唸った。
「何?」
「や、副隊長と第四十二部隊の接点がさ、良く分からないなって。
この事件が発覚したのは副隊長の身柄拘束が始まってからで、
関係者の接触も俺らの情報も無しに何故この件を知っていて、
しかも今、単独で追跡なんかしてるのか?」
指先でキーボードの端を神経質に叩きながら、反対の手で頭
を掻く。
「捕捉・追跡出来るって事は、顔を知ってたって事になるよね」
そこで顔を上げて俺に視線を合わせてきて、にやりと笑った。
「外側からロックを掛けた筈の部屋から副隊長がどうやって外に
出たか?については何の疑問も無いけどさ」
無愛想に視線を逸らすと、柏原は続けて云った。
「警察官がびったり張り付いてたし、帰り道の音声は盗聴器で
聞いてたし、監禁後に変更した電子キーのロックナンバーを口で
伝えるのは不可能だけど。。。」
言葉を切ってもう一度、にやっ、と、笑った。
「身体のどこかに触れて指で書くとかすれば簡単に伝えられる。
例えば手のひらに。。。とか、ね?」
左の手のひらを目の高さに掲げて、右手の人差し指で数字を
書くフリをしてみせる。
「籠から逃がしたつもりがこんなキケンなコトをするなんて予想
してなかったんでしょ?」
「仮説としては面白味に欠けるな」
こちらが取り合わないと見ると意味有り気に微笑んでそれ以上
この話題に触れるのは止めて、失踪した部隊のデータの続きを
再び読み上げ始めた。
「失踪時所持していたと考えられる武器は、全員が公式銃。
他は隊長から順に、変形ナイフ、日本刀、特殊鞭」
「。。。あ!」
「わっ!な、なにっ?どうかしたの?!」

バラバラに散らばっていた情報が組み合わさって、朧気ながら
輪郭を描き出した気がする。
もう少しで解けそうなのに、まだ何かが足りてない。

「柏原!例の件の情報は?!」
突然呼んだから柏原は背中を丸めて、猫が驚いた時みたいに
びくっとした。
「副隊長の事件の件のならあと一歩。こんな面倒臭い捜査が
入ってくるわやたらとガードが固いわで、ちょい難航してる」
「忘れてたんじゃねぇの。。。?」
「や。それは絶対に無いからっ」
必死な顔で否定する様子を見る限り、諜報課では成績トップ
の柏原でも調べるのに苦労するくらいに、機密性の高い情報
なのだろう。
なら、待っている余裕は無いな。
「それ、最優先で確認しといて。ちょっと出てくるからその間に」
「出てくる?どこに??」
諜報課一班全員の視線を一身に受けて、微笑んで答える。

「清寿のとこへ行ってくる」

「総隊長、何か分かったの?」
「いや。全然」
柏原は聞こえよがしに大きな溜め息をついて、呆れた顔をした。
「清寿の身の安全を確保するのが、今俺に与えられてる任務だ」
左右各々のデザートイーグルの銃身に、確認するように触れる。
「止めたってどうせ行くんだから。無駄なことはしないよ」
頭の横で手をひらひらと振った柏原に、片手を上げて応える。
「こっちのことはこっちでやるから、頼んだ事ちゃんとやっといてくれ」
欠伸を噛み殺したような顔で頷いているのが見えて、その後は
振り返らずにバンを降り、清寿の携帯の反応が留まったままの
薄汚れたビルに向かって進む。


針の様に細かった月は既に沈み、周囲は闇に包まれていた。

― on midnight of September 22.


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P.S.
またもや笑太と柏原のターン(笑
もっと清寿に活躍させてあげたい。。
そして次回はもう少し謎が
明らかになるハズ←
09/10/04Sun.


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