―Perfect Crime5. bird-in-the-cage


午前中から始まった特刑幹部による清寿の尋問は昼過ぎには
一旦終了となり、午後からは警察の任意の事情聴取となった。
「長ぇな。。。」
その場で逮捕とならなかった場合、清寿を家へ送り返す役割の
俺は、本日の任務を全て終えてもどこへも動けずに目の部屋で
クサっているしかなかった。
事情聴取が行われているのは法務省の一室で、表向きには
監視カメラは切られている事になっているが、隠しカメラと盗聴
マイクが生きていて、リアルタイムで状況が把握出来る。
「完全に否認の上に、完全黙秘だからな」
五十嵐が吸殻が溢れて灰が周囲に零れている灰皿で、根元
まで吸って短くなったタバコを捩り消す。
「副隊長は見た目ああで簡単に落ちそうだけど根は強情だから、
警察に取っちゃヤな相手だよね」
その横で柏原はポッキーを1本、歯と唇で咥えて上下に動かし
ている。
「失踪した部隊は見付からないし。散々だね〜五十嵐課長」
「んな無駄口叩いて無いで早く見付けろ」
頭のてっぺんに五十嵐の拳が落ちて、柏原がイテテ!と唸る。
居眠りを始めた羽沙希をさっき家に帰して、ここに残ったのは俺
を入れてこの3名のみになった。
「清寿、あの晩、犯行のあった公園に行ったんだってさ」
動きの無い画面を見ながら云うと、一斉に視線が俺の横顔に
集まった。
「え?!マジで?」
バキッ、とポッキーを噛み砕いて、柏原が目を丸くする。
「そう云ってた。今日迎えに行った時」
五十嵐は何も云わず、新しいタバコに火を点けた。
「じゃ犯人はやっぱ。。。」
「でも、絶対に殺ってない、って。さ」

――呼び出されて。

俯いた清寿の姿とハッキリ云い切った声を思い出す。
「。。。誰に?」
それを云ってしまえば開放されるかもしれないのに、口を閉ざして
いる理由がきっと有る。
「はぁ?!」
「おい。終わったみたいだぞ」
俺の顔を覗き込んだ柏原の向こうで、五十嵐が云った。
「笑太、やっと出番だ」
人差し指と中指でタバコを挟んで、赤い火の点る先端で立ち上がる
清寿が映っているモニター画面を指しながら。
「ゲロって無いから、まだ私語禁止?」
「多分な」
五十嵐は他人事のようにさらりと答えて、タバコを咥え直した。

清寿の部屋があるマンションの一番近くの路地で車は停車した。

車を降りる前から清寿は俺のジャケットの袖を掴んでいて、離そうと
しない
手を引くように歩き出して、やがて、横に並ぶ。
たった一日でかなり憔悴した様子だ。
指先が冷え切っているのが、布越しでも分かる。
「笑太君、今夜は監視してなくていいよ」
「なんで?」
顔を前に向けたまま尋ねると、清寿は薄く笑って頷いた。
「ぐっすり眠れそうだから」
「私語は謹んで」
真後ろを付いて来ていた警官が、短く告げる。
「はいはい。分かってますよ」
清寿が自白するか、新しい証拠が見付かって容疑が晴れるまで、
事情聴取は連日続くらしい。
ヤケに明確な目撃証言があるだけに、自白を待っているのだろう。
元々犬猿の仲の警察と特刑だ。
これを機に特刑制度自体を潰しにかかろうという魂胆が見え隠れ
している。
黙り込んだ清寿の手が、袖から離れて滑るように下がってきた。
しっかりと指を絡めて手を繋いだ頃には、部屋の前に着いていた。
「。。。っ」
清寿が何か云いたそうに口を開いた。
閉まりかけたドアの向こうから伸ばされてきた指が、俺の唇に触れる。

――ごめんね。笑太君、大好き。

ほんの一瞬、唇に残った温もり。。。

切ない笑顔を掻き消すように、ドアが閉まった。
そのドアに、外側からロックを掛ける。
「では明日。同じ時刻に」
俺を法務省まで送り届けて、警官は一礼して去って行った。


「うっわ、ひでぇな。たった一時間でどうやったらこうなるんだよ?」
目の部屋に戻ると、中は資料と書類の山で散らかりまくっていた。
「その一時間が大変だったんだよ」
柏原が面倒臭そうに顔を顰める。
「今日は監視しなくていいって副隊長に云われたんだろ?」
驚く俺の目の前で、自分の服の襟の辺りを突付いて見せた。
「?!。。。俺にまで盗聴マイク、仕掛けんなよ」
いつの間にかシャツの襟の、首の真後ろ近くにくっ付けられていた
小さな黒いマイクを取り外す。
「蛇の道は蛇ってね!それよりそろそろ知りたくなってこない?」
にひひ、と柏原が笑う。
「何をだよ?」
こんな笑い方をするのは、何かを企んでいる時だ。
「第四十二部隊失踪事件」
朝見た時より確実に分厚くなった書類を俺の目の高さに持ち上
げて、パサパサと上下に揺すった。
「これまだ緘口令が敷かれてるから、特刑上層部の中でもほんの
一部と俺らしか知らないんだよ。聞きたくない?」
「聞きたくない」
「あれれっ!?」
即答したら、柏原がイスからコケそうになった。
「この状態じゃあまだバリバリ捜査段階なんだろ?もう少し纏まって
きてから聞くよ。今日は疲れた」
柏原は、はは〜ん!と何か分かったような表情(かお)で唸ると、手
にしていた書類だけ俺に向かって突き出した。
「たまにはしっかり眠らないと総隊長だってバテる、か。どうせ俺ら、
ここに泊まることになるしね。ただ、これにだけは絶対に目を通して
おいて。明日は多分、それを追うことになるからね」
2cm程の厚みのあるそれを受け取る。
「すまないな」
視線を柏原から、清寿の部屋の中が映っているモニターへ移す。
ベッドの上に横になっている姿は無く、玄関の近くの床に髪の毛の
先が見える。
玄関先で蹲って眠ってしまったのだろうか?
丁度カメラの死角になっている部分に身体が入り込んでいる様で、
髪以外は映っていない。
「副隊長、変なとこで寝ちゃったみたいだね」
俺の視線の先を追って見て、柏原も気付いたらしい。
「ああ。風邪引かないといいけど」
言葉を交わす事を禁じられているのでは、電話を掛けて起こして
やる事も出来ない。
ましてや部屋に行く事など許される訳が無い。
「じゃ。お先に」
「ん。お疲れっ」


真っ直ぐに帰る気にならず、遠回りするルートを選ぶ。


「今日誕生日だったのにな。。。」

毎年俺の誕生日が先に来て、そんなに日付が離れていないから
清寿の誕生日を覚えていられる。

「おめでとう、清寿」

仰ぎ見た夜空は晴れていて、星が沢山光っていた。

「おめでとう。。。」

寒くもないのにジーンズのポケットに両手を突っ込んで、背中を
丸めるようにして歩く。
もっと背筋をしゃんと伸ばさないとカッコ悪いよ!と、いつも清寿に
叱られる格好だ。

何故真実を話そうとしない?
何を隠し通そうとしている?

こんな時でも思い出すのは笑顔ばかりで、いたたまれなくなる。
清寿は典型的なB型で気まぐれだけど、考え無しで動くタイプ
では無い。
早く自由の身にして一緒に誕生日を祝う為に、俺は。。。


お前の望むことをしてやるだけだ。

― on night of September 21.


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P.S.
実はこれ、
清寿の誕生日の話
だったんです(汗
ちゃんとお祝い出来るかは
笑太の頑張りにかかっている。。
かも?←
09/09/30Wed.


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