―Perfect Crime3. misread


真っ暗な目の部屋で、モニターに向かって身を乗り出す。
もし見間違えじゃないとしたら。。。
寝不足のせいで見た錯覚じゃないとしたら。。。
今、俺の名前を。。。呼んだよな?



清寿が無差別殺人の犯人容疑で警視庁からマークされ、
身柄を渡す代わりに特刑側で24時間監視をすることになり、
自宅に監禁されてから2日が過ぎた。
俺達には任務が有るから昼間は諜報課一班の者が交替で
見張り、仕事が終わると俺と代わる。

「それじゃ監視になってね〜じゃん」
夕方になって目の部屋に行ったら、柏原が自分のPCを持ち
込んで仕事をしながら欠伸をしていた。
「監視も何も、副隊長、朝からほとんど動いてないし」
午前中居たのは柏原じゃなかったような気がしたが、記憶が
混乱しているだけかもしれない。
「眠れてんのか?」
俺の問いに柏原は目を伏せて大きく首を横に振った。
「普通、こういう状況で心配するのはさ、”ちゃんとご飯食べて
るか?”が先なんじゃない?」
「そうか?どうせ飯なんて食ってないんだろ」
それを聞いて柏原は、眉を顰めて苦笑した。
「アンタ達ってホント変わってる」
呆れた口調で云いながら、ベッドの中央に仰向けで横たわって
いる清寿の顔を映しているカメラからの映像を拡大する。
「痩せたな。。。」
閉じられた瞼には青く血管が浮き、頬が少しこけた。
「食べてないし、寝てないし、精神的にもキテるでしょ」
唇は渇いていて、青白い肌に生気は無い。
「。。。まるで人形みたいだな」
腕組をして画面を見る俺の横顔を見上げて、柏原が大きく息を
吐き出した。
「あのさ、総隊長。とうとう副隊長の事情聴取が始まるって」
犯人じゃないかと疑われているなら仕方無い。
その覚悟は疾うに出来ている。
「いつから?」
「明日から」
視線を、柏原の手元のPCへと落とす。
「早いな。間に合いそう?」
指が踊2るようにキーボードの上を動き回っている。
「間に合うも何も!諜報課一班班長を見くびってくれるなよ」
Enterキーを押すとディスプレイ上に窓が開いた。
「事件があったあの日、副隊長が買って帰ってきたケーキの包み
紙に印刷されてたロゴってこれでしょ?」
「そうそう!これだった」
記憶の中でなんとなく覚えていた柄と、目の前の画像が重なる。
「スイーツショップってのは大体どこも閉店が早い。そしてここは、
遅くまで営業してるってことで割りと有名な店なんだ」
軽快にキーを押す音がして、画面全体が地図になった。
「だから21時に藤堂が入院していた病院を出た副隊長がどうし
てもその日のうちにケーキを買わなくてはならない、となると、第一
セクターのこの店に行くしかない」
地図上の点が動き出して線になる。
「22時頃副隊長はここに立ち寄り、ホールケーキを買い、チョコレ
ート製のプレートに文字を入れてくれと頼んだ」
線が止まって、点滅する点に戻る。
「約15分滞在して、そこから徒歩数分のここに寄る」
点が伸びて再び線になった。
「この店ではシャンパンを購入。銘柄に悩んで20分近く滞在」
そうだ。。。確かに乾杯した時、シャンパンを買うのにどれがいいか
すごく悩んだ、という話をしていた。
「徒歩で移動となると、病院からスイーツショップまで1時間。各々
の店で計35分間のロス。そしてそこから家までは。。。」
光る線が意外な軌跡を描いた。
「。。。!これ。。。?」
にやっ、と、柏原が口元に、意地の悪い笑みを浮かべる。
「そう。総隊長が云っていた時間に家に帰り着いたとなると、」
「事件のあった公園の中は通らない。。。か」
地図に色の違う線が1本出てきた。
「ケーキ持ってシャンパン持って藤堂の着替えなんかも持って、
わざわざ遠回りなんてしないでしょ?」
2本の線は最後に寄った店まで重なり、その後大きく分かれて、
別のルートを表示する。
「どちらの店からも裏付けは取れてる。副隊長目立つから、
約1ヶ月前の事なのに複数の店員がしっかり覚えてた」
何かが気になる。
「どんなケーキを買ったとか、プレートに何書いたとか、全部覚えら
れてるところがスゴいよね」
やっぱり、引っ掛かる。。。
「って事は、警察も情報は掴んでる。。。?」
俺の質問を正解とでも云いたげに、柏原は皮肉な笑みを作る。
「ああ。警察が聞き込みに来たってさ。で、訊かれた側は俺達に
したのと同じ話をしてる」

「なら何故、清寿は被疑者から外されないんだ?」

「さぁね。犯行現場での目撃証言を重視してんじゃないの?」
納得行かない俺の表情(かお)を見て、柏原が溜め息をつく。
「目撃証拠。。。」
外見が清寿と完全に重なる犯人を見たという第三者。
「柏原、ちょっと耳貸せ」
突き出された耳朶に口を寄せて、数言囁く。
ここだって誰かに盗聴されていないとは限らない。
視線を合わせて、神妙な表情(かお)で頷き合う。
「。。。了解。じゃ、帰るから。後よろしく」
挨拶代わりに軽く片手を上げて、柏原が部屋から出て行った。

イスを2つ横に並べて足を伸ばして座り、毛布に包まって、たまに
動くから辛うじて生きていると分かる清寿を見守る。
「また長い夜になるかな。。。」
俺の呟きが聞こえたかのように、清寿が目を開ける。
焦点の無い虚ろな瞳が監視カメラを凝視して、淡く笑った。

『笑太。。。くん?』

呼吸が詰まり、心拍数が上がる。

「清寿。。。っ!」

こちらの声は聞こえない。
あちらの音声は高性能マイクに拾われて聴こえるのに。

『そこに居るの?』

立ち上がる時勢いでイスが倒れたが構わずに伸び上がって、モニター
に映し出されている頬に触れる。

「ここに、居るよ」

唇をなぞるように、指を滑らせる。
昨日の晩、清寿が監視カメラを見詰めて俺の名前を呼んだように
見えたのは、気のせいかと思ってた。

『まだ笑太君と一緒に居たいから、闘うって決めたよ』

ふわっ、と、表情が緩む。

『だから僕、もうちょっとちゃんとしないとイケナイよね』

苦々しい微笑みを返す。

「清寿、ごめんな。すぐに助けてやれなくて」

涙が溢れて、話し掛ける語尾が揺れた。
そんな俺の様子が見えているかのように、清寿は微笑んだ。

『近いうちに会えるといいな。それまで頑張るから』

両手を真上に上げ、誰かを抱き締めるように空を掻き抱いた腕が、
重なってゆっくりと胸元に落ちる。
目を閉じて誘うように軽く開かれた唇の上へ、モニター越しの、
届かないくちづけを送った。

『今夜は眠れそう。。。おやすみ、笑太君』

モニターが並ぶ壁面に沿って作り付けられたテーブルの上にうつ伏
せて、顔を上げられないまま、眠りに落ちた。

― at September 20.


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P.S.
気が付いたら
笑太と柏原のターンに(笑
次回は清寿のターンです
←多分。。(汗
09/09/22Tue,


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