[07] Sunday 夕飯の買い出し


「清寿。もう昼だぞ」

遠くから聞こえるような声に曖昧に返事をする。
寝返りを打って細く目を開くと、ソファに背筋を伸ばして座って
本を読んでいる姿が見えた。
笑太君は読書、と云うか、活字を読むのが好き。
本も雑誌も読むし、毎朝必ず新聞に目を通す。
右の人差し指が神経質そうにページの端を弄っている。
あれは読んでいる内容が面白い時にする仕草。
「?」
僕の視線を感じてこちらを見る寸前に目を閉じる。
しばらくしてもう一度。
見詰めていたのに気付かれる前に、寝ているフリをする。
わざと音を立てて閉じた本をテーブルの上に置く音がして、
近付いてきた気配が傍らに座り、ベッドが軋んだ。
「起きられない?」
うつ伏せになった僕の髪に梳き入れられた指が優しく動く。
「ごめん。。。」
枕に顔を押し付けるようにして埋め、苦しそうな声で返してから、
また薄く瞼を開いて様子を伺う。
「もう少ししたら起きるから。本の続き、読んでて」
読書している笑太君の横顔をもう少し眺めていたい。
それが本音で、動けないワケじゃない。
「やっぱ床の上はキツい。。。よな」
髪の流れに沿って滑り降りた手が、毛布の上から背中や腰を
揉み始めた。
「そりゃそーだよ。笑太君は上だからいいけど、僕は、ね」
見えないけれど、今どんな表情をしているのか分かるよ。
一気に寝返りを打って上を向く。
慌てて僕から離したまま行き場を失い中空で凍っていた笑太君
の手を、腕を伸ばして掴み取る。
申し訳なさそうに歪んでいた顔が驚いた表情(かお)に変わる瞬間
を見れたから、満足。
「ね、ホラ。だいじょぶだって」
手のひらを、頬に引き寄せる。
「清寿」
その手が髪の上から顔の輪郭の形をなぞり、親指が唇に触れて
きた。
「なに?」
真剣な眼差しに、ごくり、と、唾を飲み込む。
「腹減ってねぇ?」
「あはははっ!昨日のお昼から何も食べてないもんねっ」
呆れて笑った口元に入ってきた指を軽く噛む。
「僕はそんなでもないけど」
舌先で追い出した指が口の横を擦るように撫でている。
「何か食いたくない?」
何を云わせたいのか瞬時に悟ってしまった。
笑太君は任務に関係無い部分においては、とても分かり易い。
「食べたくなくはない。。けど?」
満面の笑み。正解、だったみたいだ。
「じゃ、作ってやる」
その笑顔と裏腹に、一抹の不安が残る。
「ねぇ笑太く〜んっ」
「あ?」
キッチンで、腕まくりをした笑太君が振り返る。
「。。。料理出来たっけ?」
にやり、と、意味有り気な微笑み。
「多分、な」
僕、失敗したかも。
「じゃあ僕が。。。」
「いいから!俺に任せて寝てろ」

笑太君は一度云い出したらやり遂げるまでは僕の云うこと
なんか聞いてくれないんだった。。。

「食材何にもねーじゃん。昼はなんとかなりそうだけど夕めし
どうするかな?」
え?!もしかして夕ごはんも作る気でいる。。。?
「めし食ったら買い出しに行くぞ」
「夕飯は僕が。。。!」
上半身を起こそうとしたらクラッとして目の上を押さえたのを
見られてしまい、笑太君が優しく笑って云う。
「今日は一日休んでろ。たまにはいいだろ?お前の作るの
には敵わないけど何とかなるって」

あ。。。あ〜あ。。。

「うん。。。ありがと」
笑太君の気持ちは踏みにじれない。
それが例え有難迷惑であろうとも。。。
優しい人だから。。。そこが好きになんだから仕方ないかな。


―End―



快晴で穏やかな風の吹く
静かな日曜日。。
キッチンの後片付けをするのは
もちろん清寿です(笑
09/08/29Sat,


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