―Know Everything about Me―


突然黙り込むなんて、そんなに珍しいことじゃない。
何年も2人で一緒に居るからって何でも知っているワケじゃなくて。。

一番近くて、遠い――。

僕から見た笑太君はそういうひと。

云ってくれないことが多いから分からないことも多くて、
僕はいつも翻弄される。

今日だって朝出勤してきた時も任務中も完了報告の時も、
さっきまで全然普通だったのに。。
今は話し掛けてもろくに返事もしてくれない。

「ねぇ。笑太君」

更衣室で並んで隊服から私服に着替えながら、横目で顔色を窺う。

「あぁ?」

声の感じで、不機嫌なのは分かった。

「あ。。。え、えっと。。。」

顎を少し上げて上から僕を見下ろして、わざと大きな音を立てて素肌
にシャツを羽織った。
バサッ!と起こった風で乱された髪を片手で押さえてその手のひらの陰
から、無駄に大きな動きで袖に腕を通している姿を盗み見る。

「っんだよ?」

隠していたつもりの視線を氷みたいな瞳に絡め取られて、心臓が跳ねる。

「ご機嫌。。。悪い?」

何か云わないと許して貰えなさそうで苦し紛れに口から出たのは、
我ながら情けなくなる程直球な質問。

「見りゃ分かんだろ」

溜め息混じりの呆れた口調。
うん。そうだね。それだけハッキリ顔に出してるんだから。
二の句が継げない僕から目を逸らして、シャツのボタンを留め始めた。

「。。。」

僕も下を向いてネクタイを締める。
沈黙が重い。。
こういう時は笑っただけでもきっともっと機嫌を損ねてしまうから、
どんな表情(かお)をしていたらいいか何を云ったらいいか分からなくて、
余計に俯いてしまう。

「なぁ、清寿」

先に着替え終わっているのに、なんで帰ろうとしないのかな。。。?と
思っていたら、唐突に名前を呼ばれた。

「な、何?」

反射的に背筋がきゅっと縮んで、肩を竦めた。
そんな僕の様子を冷ややかな表情で観察して、笑太君は口元を歪めた。

「。。。俺に云うこと有んだろ?」

目を丸くして、青い瞳を見詰め返す。

「え。。。?」
「だからさ、何か隠してねぇ?」

笑太君は確信を持って問い詰めて来るけれど、何のことだか全然覚えが
無い。

「隠し事なんて。。。して無いよ?」

そう答えた途端に笑太君の顔が近付いてきて、僕はロッカーを背に追い
詰められた。

「ホントに?」

両手を僕の頭の横に突いて目の前に立ちはだかり、逃れるどころか目線
を外すことすら許されない。
怒っている時の笑太君の顔は綺麗すぎて、怖い。

「お前話さないことが多いから未だに良く分からないんだよな」

それ、そのまま笑太君に返してもいい?

ひるんじゃいけないと思って、上目遣いで睨み返す。
やましいことなんて何も無いから負けていられない。

「本当も嘘も、笑太君が何のこと云ってるんだか全然っ分かんないっ」

力を込めた目の端に、じわりと涙が滲んできた。

「。。。さっき、そこの廊下で随分楽しそうに話してたじゃねぇか」
「さっき?」
「何班かは覚えてねぇけど、諜報課の女と」

あ。。。ああ!あの時のことか。

「俺の顔見たら慌てて話を止めて、さっさと逃げるみたいに居なくなって。
感じ悪ぃ」
「違っ。。。違うよ、逃げるとかそういうんじゃなくて。。。」
「聞き間違いじゃなければ俺の名前が出てたみたいだったけど。。。本人に
聞かれちゃマズイような内容の話、してたんだ?」

僕の迷いを敏感に感じ取って、笑太君が意地悪い口調で畳み掛けてくる。

「や。。。だからそうじゃなくて」
「ふぅん」
「っ!!」

顎を捕まれて抵抗する間も無く唇を奪われ、舌で咽喉の奥まで蹂躙される。
乱暴なようで優しいくちづけで、頭の中が真っ白になった。

「式部清寿。お前は俺のもんだ」

覆い被さるように立っている笑太君の首にすがりつく。

「浮気なんてしてんじゃねぇよ」

心臓が壊れて飛び散りそうな程の動悸と、身体の奥に生じた蕩けてしまいそうな熱。
ぼうっとしてしまった頭で必死に云い訳をする。

「でも、あれって。。。笑太君が何が欲しいと思うかって訊かれてただけで。。。」

笑太君が目を見開いた。

「は、はぁ?!なんでそんな事お前に訊くんだ?」

心からの微笑みが、堪えきれずに溢れた。

「もうすぐお誕生日だから、だよ。また忘れてたんでしょ?自分の誕生日」

マンガみたいに首から頭の天辺まで、笑太君の顔がみるみる赤く染まってゆく。

「ヤキモチ妬いてくれてありがと。僕の方が一足先に誕生日プレゼント貰っちゃったね」

再び黙ってしまった唇を、頭を抱いて引き寄せた。

「笑太君、大好き」
「。。。俺はもう云わねぇからな」

照れ臭そうな瞳を捕らえて見詰め合い同時にぷっと吹き出して笑ってから、
ゆっくりと唇を重ねた。


―The end―






P.S.
Happy Birthday 御子柴笑太♪
。。のハズなのに、
清寿の方が嬉しい話。

YAYOI様のリクエストは
『御子式で、笑ちゃんがヤキモチを妬く夢を。
清ちゃんに近づく女の子に嫉妬して欲しいです』
で、こんな感じに。。
もっと可愛らしい話にしたかったのに
無理でした(涙
どうもすみませんです。。


笑太のお誕生日話はもう1本有り。
Coming soon!!

09/08/17Mon.


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