[04] Thursday “清掃日”


「。。。なんだこれは?」
諜報課一斑の部屋のドアに貼られた“清掃日”と
書かれた紙を、指先で軽く持ち上げてみる。
裏は白紙。
もう一度表をじっくり見てみる。
A4のプリンター用紙に極太の油性ペンで手書き。
この字は式部の字、だな。
紙の上をノックする。
バタついている気配だけして、中から返事は無い。
ノブを回してドアを細く開け隙間から覗き込むと、
PCに向かって座っている柏原とその横に立っている
藤堂が見えた。
「柏原」
呼ばれてこっちを向いたその顔は眉間に縦じわが
寄っていて、非常に迷惑そうだった。
「お疲れさまです、五十嵐課長」
ぺこっと頭を下げた藤堂は無表情だ。
室内に入ってぐるりと見渡すと、部屋の半分が乱雑
に積まれた書類の山で埋まっていた。
「。。。何が始まってんだ?」
返事の代わりに、大きな溜め息が返ってきた。
「外見たでしょ?」
面倒臭そうに云って、また溜め息をついた。
「“清掃日”?」
「らしいですよ」
重い物が落下したような大きな物音で反射的に身
を竦めて音がした方へ視線を遣ると、舞い上がった
埃の向こうに人影が2つ。
「ビックリしたぁ!」
「だから〜危ねぇって云ってんだろ?」
頭を抱えてうずくまった式部を庇うように笑太が覆い
被さっていた。
「てか!なんでこんなこと俺達がやってんだよ。。。」
上から降ってきて式部の肩や背中に乗っかった書類や
CD-ROMを取り退けながら、笑太が毒づく。
「あのさぁ〜。元はと云えば笑太君があの任務の資料
どこに置いたか忘れちゃったのがいけないんだから」
云い返す式部の迫力に、笑太が押され気味だ。
「だからぁ、っんで今更そんなの要るんだよ?」
一瞬言葉を飲み込んだ式部が、困った顔で笑った。
「笑太君が出し忘れた分の報告書とか始末書、いつも
誰が書いてるか分かってるよね?」
あの顔で微笑みながら云われると怖いな。
「あ、ああ、まぁ。。。その。。。なんだ。。。」
笑太も。。。ウソくらいもう少し上手くつけばいいのに。
「ええっ!まさか気付いてなかったとか?!」
「いやっ、そんなっ。。。ことは。。。いつもすまない。。。」
式部が呆れた顔で太い息を吐いたところで、助け舟を
出す事にした。
「おいっ」
2人が同時にこっちを見た。
「あれ、五十嵐課長?おつかれさまでーす」
「なんだイガグリぃ?次の任務が決まったのか?」
眩しいくらいの笑顔と、隠しようも無い安堵の顔。
「いや、任務はまだ。ところでいつの資料探してるんだ?」
問い掛けに答えようとした笑太の口を、横から出てきた
手のひらが素早く覆う。
「掃除のついでに探しますんで。ご心配なく」
式部がクソ真面目な顔をしてきっぱりと云った。
「大体三上部長も五十嵐課長も笑太君に甘過ぎる」
何か云うととばっちりが飛んできそうなので、黙っておく。
「これ以上笑太君を甘やかさないでください」
返ってきた満面の笑みに言葉を詰まらせた俺の顔を
見上げて、柏原がぼそっと呟いた。
「散らかしてんのは俺らだから、助かるんですけどね」
作業を再開した笑太と式部を見るともなく見ていたら、
横で藤堂が、けほっ、と小さく咳き込んだ。
「藤堂は?手伝わなくていいのか?」
訊かれて眉を寄せて困った顔になった藤堂の代わりに
柏原が答えた。
「藤堂には責任無いからいいんだって」
「。。。天下の総隊長が尻に敷かれっぱなしだな」
心底迷惑そうに、柏原が溜め息で同意を示す。
「こんなとこで遊んでないで、早く任務振ってください」
いつもは過労死するから休ませろだの何だのと文句を
云ってくるのに、こんなことを云い出すのは珍しい。
「柏原。お前、二日酔いだろ?」
柏原はPCから目を離し、眉の間を揉みながら本気で
嫌そうな顔をしてみせた。
「。。。ドタバタされると頭に響くんですよ」
笑いを噛み殺しながら廊下へ逃れる。
さて次はどんな任務を割り当てようか。。。


―End―



第一でも手が空いてる時が
あるらしいので(7巻参照)、
そういう日は事務仕事も
するのかな、と。
訓練、とか云ってすぐ地下へ
行ってしまう笑太の代わりに
頑張ってる清寿もたまには
キレてみた話。。
09/06/29Mon.


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