[03] Wednesday 行きつけのお店へ


目立つだろうなと思っていたら案の定、俺達が店内に入った
途端に視線が集まった。
正直に云えば、俺達、じゃなくて、この人達が、だけどね。
「へぇ。いい感じだな」
「素敵なお店だね」
微笑む副隊長の身体にさり気なく触れている総隊長の腕。
「奥、行こう」
入口に近いカウンター席に座りたそうにしていた副隊長にそう
云って、その腰に腕を回して押す自然な仕草。
自分達が注目される存在だと自覚してないのがいいところで
面倒なところ。
「柏原班長」
テーブル席で隣に座って呼び掛けてきた副隊長に向かって、
口の前に指を立てる。
「班長はNG」
あっ、という表情(かお)をして舌先をぺろっと出した。
そう云えばこの面子でプライベートに呑むのは初めてだな。
「2人とも、外ではあんまり呑まないの?」
仕事帰りにひとりでも寄る行きつけのバーがあると、雑談の時
に口を滑らせたら食い付いてきて、結局連れてくることになって
しまった。
「ああ。落ち着くからうちで飯が多いな」
「昨日久々に外食したんだ」
ほぼ同時に云って、総隊長も副隊長も屈託無く笑った。
そんな様子を盗み見て、ひそひそ話している席も有る。
平日の夜だから客が少ないのが救いだな。
何かと話題になることも多くてマスコミに何回か写真が流れた
第一の2人だから、誰かが気付かないとも限らない。
「とりあえず何頼む?」
メニューを覗き込みながら副隊長が自然な感じで総隊長の
肩に寄り添っていて、なんとなくどきっとする。
「とりあえず生ビールかな」
総隊長の声で我に返った。
「俺も生で」
「じゃあ僕はモヒート」
未成年の頃から知っているこの2人と呑むことになるとは、ね。
なんとなくお兄さんな気分かな。
「なんて呼ぼう。。。?」
乾杯して一口付けたグラスを置いて、大真面目な表情(かお)
で副隊長が呟いた。
「あ?さっきの話の続き?呼び捨てでいいだろ。呼び捨てで」
総隊長は普段から俺のこと苗字呼び捨てだからな。。。
入隊した頃の可愛げなんて、欠片も残っていない。
「それはムリ。でも柏原さんもなんか照れるから、謙信さん?」
副隊長にそんな顔で云われると、こっちの方も照れる。
「清寿はさ、俺の時もそうだったよな」
なんでもいいよ、と答えようとしたタイミングで総隊長が割り込
んできた。
「名前で呼べっ!て半年云ってた気がする。。。羽沙希ん時は
初めから名前だったのにさ」
総隊長は少し残っていたビールを飲み干して置いたグラスの底
がテーブルに当たって、結構大きな音がした。
「笑太君と羽沙希君は全然違うよ」
「違わないだろ。仲間なんだから」
会話のテンポはあまり変わらないけれど、総隊長が口を尖らせて
拗ねたように云う様子が子供っぽい。
「だって僕が入隊した時もう笑太君は総隊長で上司だったし、
羽沙希君は最初から部下だもん。違うって」
他愛無いことで云い合いが続いていて、これが特刑のツートップ
の会話かよ、と、苦笑が漏れた。
「っんだよ?」
「いや。なんか可愛いなぁ〜って思ってさ」
明らかに照れ隠しでこちらに絡んできた総隊長に、余裕の笑み
を返す。
「かっ!?可愛いとか云うな!」
「あはっ。笑太君って可愛いよねっ」
同時に云って総隊長は副隊長を睨み、副隊長は俺に向かって
微笑んでいる。
なんだ。。。まだ歳相応の可愛げがまだ残ってるじゃないか。
「清寿、笑い過ぎだ」
「だって可笑しいんだもんっ」
「もしかして笑い上戸??」
「まだそんなに呑んでないよ〜」

「。。。お前ら、盛り上がってんな。。。」

笑いっぱなしの副隊長の後ろから、聞き慣れた誰かの声がした。
「あれ?五十嵐。。。さん??」
副隊長が涙が滲んだ目の縁を指で拭う。
「なぁ柏原、この店って特刑御用達?」
総隊長が嫌そう(かお)で云う。
「あ!ここ教えてくれたのこの人だった」
指さした俺の頭を小突きながら、五十嵐課長が苦笑する。
「おひとりなんですか?」
ひとつ空いていた席に腰を下ろした五十嵐課長に、副隊長が
身を乗り出すようにして質問する。
「いや。後からツレが。。。」
一旦言葉を切って、意味有り気に口の端に笑みを浮かべた。
「良かったな。奢ってもらえるぞ」
ツレが誰か3人同時にピンと来て、総隊長が唸る。
「あ〜なんか職場の延長みてぇじゃねぇ?」
「いっぱい呑んでからんじゃうってのは?」
「タダ酒呑ませてもらって絡むのか、笑太?」
「わ〜笑太君、サイテー!」
「んな事俺は一言も云ってねぇだろ〜が!!」

かなり遅れて来た“もう1人”はそこそこ出来上がっていた俺達に
いきなり拍手で迎えられ、呆れたような笑みを漏らした。


―End―



久しぶりに書いたら
長くなってしまった。。(汗
羽沙希が入隊してすぐ
くらいという設定。
09/05/20Sat.


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