[02] Tuesday 「それって今日だっけ?」


不規則に響く水滴が垂れる音は、清寿がコーヒーを
淹れている音だと思っていた。
「笑太君っおはよっ」
寝返りをうっておはようのキスを唇に受ける。
「ん。。。」
目を開くと、窓ガラスを流れ落ちる雨粒が見えた。
「。。。雨、か」
少し離れた所で清寿が溜め息をついた。
「今日も雨だって」
残念そうな声と、コーヒーをカップに注ぎ分ける音。
「そ。。。か」
ぼんやり上を向いていると、瞼が自然に閉じてくる。
「今日は晴れて欲しかったのになぁ」
無理矢理開いた目だけを動かして、清寿の声がする
方を見る。
「お前があれ、作りすぎたせいじゃねーの?ホラ、あの
逆さてるてるぼうず」
これだけ云う間にあくびが3回出て、くすっと笑われた。
「笑太君あれはね、“ふれふれぼうず”って云うんだよ」
垂れてきた前髪を、ぐしゃぐしゃと掻き上げる。
「んな事訊いてねぇよ」
本当に、そんな事はどうでもいい。
「結構降ってんのか?残念だな」
窓に当たる雨音が強くなったような気がする。
薄暗いから、あくびが止まらない。
それを見て清寿がまた笑う。
「そう?僕は雨、嫌いじゃないよ」
あれ?
がっかりしてると思っていたらそうでもない?
「血で汚れた体も罪悪感も浄化してくれるような気が
するから、か」
前に聞いた覚えのある台詞を口にすると、清寿は唇
の端で微笑みながらも俺の視線から目を逸らした。
「うん。むしろ雨の日の処刑の方が気分的に楽」
やっとの思いで上半身を起こし、手際良く朝食の準備
をしていく手元をぼんやりと眺める。
「笑太君、ごはんにする?それとも先にシャワー?」
清寿が投げて寄越したバスローブには、コーヒーの香り
が移っていた。
「夜には晴れんのか?」
それを羽織ってベッドから降りて、大きく伸びをする。
「晴れたらいいな、くらいみたい」
天気が良くはならないってことか。
「でも、止まない雨は無いから」
あっけらかんと云われて、さっきから感じていた違和感の
原因を悟った。
「清寿」
体を屈めて覗き込むようにしてアロワナの水槽の側面を
数回軽く指で弾き、バスルームに向かって歩き出す。
「うん?なに?」
コーヒーを一口啜ってカップを口から離し、清寿は俺に
向かってにこにこ笑い掛けた。
「お前、忘れてんだろ?」
「?」
目を丸くして小首を傾げたのを見て、確信した。
「今夜の約束」
「。。。え?」
珍しいこともあるんだな。
「前から行ってみたかったって云ってたイタリアンに行くの、
今夜だよな?夜景がキレイとかでなかなか予約が取れ
ないって店の予約がやっと取れたから、って。。。」
何ヶ月か前の話だから記憶はちょっと曖昧だが、確か
そんな事を云ってたよな?

清寿が何か云っていたが振り返らずに、後ろ手でバス
ルームのドアを閉める。

一緒に夜出掛けるのは久しぶりだから、意外に楽しみ
にしてたんだな。。。
いつもは約束を忘れる俺の方が覚えていたのが逆に、
照れ臭かった。


―End―



日常の1コマ。
「笑太君ってばまた忘れてたの!?」
とか云われてるんだろうな〜
いつもは。
09/06/02Tue.


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