―Chew Like Candy―


「はい、これ。笑太君の分!」

ソファに寝転んで明日からの任務の資料を眺めていた
御子柴の、顔の横にあるテーブルの上に重そうな紙袋
を置いて式部が云った。
「。。。?」
横目で紙袋をチラッと見て、続けて横で微笑んでいる顔
を見て、御子柴は手にした書類を口元に当てて視線を
上に泳がした。
「もう!笑太君ってばっ」
その仕草だけで云いたい事を汲み取って、式部は呆れ
たような声をあげた。
「明日ホワイトデーだよ」
ああ。。。と、声は出さずに吐息混じりに口を開けて、
面倒臭そうに眉を顰めた顔を見て、深く息を吐いた。
「今年もちゃんと貰った数分あるから、ね!」
毎年、この日を忘れている御子柴の為に自分の分と
一緒にお返しを準備するのが、いつの間にか式部の
役割になってしまっている。
「ん」
資料に目を戻していい加減な返事をする御子柴の顔
に手を伸ばして黒いセルフレームのメガネを素早く取り
上げ、上から覗き込んだ。
「ね。誰に貰ったかとか覚えてないんだよね?」
伸ばしている途中の髪がサラサラと視界の中に滑り落ち
てきて、御子柴はぼんやりとそれを見ていた。
「なんとなくは覚えてそう。。。かな?」
指を伸ばし、その髪を玩ぶ。
「またまたぁ。。。」
疑われている通り、本当はあまり覚えていない。
何人かには直接手渡されたが、ロッカーや諜報課一班
の部屋に置いていかれたのもあるしな。。。と、御子柴は
頭の中で云い訳しながら、ブルーブラックの髪を一房掴み、
軽く引っ張った。
「そ〜ゆ〜お前は覚えてんの?」
上半身を屈めて顔を近付けてきた式部が、御子柴の
顔の至近距離でふわっ、と微笑んだ。
「自分が受け取ったのはね。カードとか入っていて誰からか
分かったのも」
なんとなく、面白くない。
御子柴は目を細めて、無言で式部を見返す。
「義理がほとんどだとしてもだよ、あげたい、って思ってくれた
気持ちが嬉しく。。。ない?」
じっと見詰められて、語尾が淀む。
「笑太君になら解るけど、僕なんかにくれるのが嬉しいなって
思うんだ」
式部が最愛の両親を亡くして、自分は他人に愛されないと
思い込んで育ったのは知っている。
もう少し自信を持ってもいいのにと思いながら、式部の髪を
指に絡めて、今度は強く引いた。
「俺はさ」
鼻の頭が触れて、自然と唇も触れる。
「毎年こんなのどうでもいいって思う」
強張った式部の笑みを解すように、頬の輪郭を手のひらで
なぞる。
「お前からだけもらえればいいって、云ったよな?」
強引に唇を重ねられて、式部がそれに応えようとした隙に
ソファに押し倒される格好になった。
「そして、お前にだけ返す、で良くない?」
その首から胸に唇と舌を滑らせて、着ている物を脱がせよう
としている御子柴の頭を、式部は両横から手で挟むように
して押さえこんだ。
「そんな事云って、本当は完全に忘れてただけじゃないの?」
「ははっ!お見通しか」
御子柴の笑顔を引き寄せ、くちづける。
「僕へのお返しって?」
式部の微笑みを、抱き寄せる。
「俺」
「“俺”?」
言葉が重なって、御子柴は黙り、式部はころころと笑った。
「最近そればっかりだよ?」
からかうように口の横のホクロを突付いてきた手を掴んで顔
から離し、御子柴は答える。
「一番欲しいもの、じゃねぇの?」
「あははっ。自惚れてる」
瞬間目を丸く見開いた式部が、指先にくちづけを受けながら
云う。
「違わないだろ?」
手首から腕へ、舐めるように唇が辿るのに合わせて、切ない
吐息が漏れる。
「。。。うん、違わない」
開かされた膝の間に、御子柴の身体が割り込んできた。
「嬉しいよ、笑太君」
御子柴は下から差し伸べられた腕が掴まり易いように上体を
心持ち倒し、式部に微笑み返した。
「綺麗だな」
「オトコに綺麗って、褒め言葉じゃないって」
潤んだ瞳を曇らせて、式部が唇を尖らせる。
「でも、綺麗だ。もっと見せて」
「んっ。。。ちょっ、ちょっと待っ。。。っ!」
はだけさせたシャツの胸元を急に押さえられて、今度は御子柴
が唇を尖らせた。
「ね、ベッド行こ。ここじゃヤダ」
必死になって抵抗する式部に、食い下がる。
「なんで?」
「。。。」
視線が御子柴の上方を彷徨い、戻ってきた。
「ここだとアレと目が合う時があるから。。。」
「“アレ”?」
式部が顎を持ち上げて指し示した先には、監視カメラのレンズ
があった。
「ああ。。。あれか」
重なり合う2人の姿が、レンズに歪んで映っている。
「ここ真下だから。時々ばっちり目が合うんだよ」
マイクに拾われないように声を潜めて、耳元に口を近付けて囁く。
「気にしなきゃいい」
御子柴もそれに合わせて、小声になる。
「笑太君は下向いてるからいいけど!僕は上を向いててるから
恥ずかしい」
「じゃ、今日は上になる?」
式部の云いたいことが分かっていて、御子柴がからかう。
「違うー!」
普通に声を出してしまってから、式部は慌てて口元を空いている
方の手で覆う。
御子柴はその様子を見て、口角を上げて意味有り気に笑った。
「。。。確かに他のヤツに見られんのは勿体ねぇな」
元々大きな紫の目が、更に大きく見開かれた。
「え?!や、勿体無いとかじゃなくて。。。」
最後まで云わせず、啄ばむように唇を遊ばせる。
「いや、勿体無い」
真面目な顔の御子柴の頬に、式部は手のひらを添えた。
「それ。。。褒められてる?」
式部がそう云った途端、胸元に当てていた手首を取られ、頭の
上で押さえ込まれた。
「ちょ。。。え、えっとぉ。。。しょ、笑太く。。。」
深くくちづけてきて一旦離れた御子柴が、ニヤッ、と笑った。
「イクまでずっとキスしてれば上から顔見えねぇだろ」
「うーん。ちが。。。うっ」
傾けて重ねられた唇で、文句を云おうとした口元を塞がれた。
自由にされた両腕で、御子柴の身体にしがみつく。
「もう途中じゃ止められないからな」
「ん。。。頑張る」
式部から唇を重ねようとした瞬間に、御子柴の唇が半月型に
なった。
「頑張るのは明日でいいよ」
「?」
「今年も俺の代わりに配って歩いて」
御子柴が顎で指したのはテーブルの上にさっき置いた紙袋で、
その中に詰まったホワイトデーのお返しを配って歩くのも式部の
役割になりつつあった。
「笑太君〜。。。云うのは簡単だろうけど結構大変なんだよ。
今年こそは自分でやっ。。。」
「口、離すなよ」
より深く差し込まれてきた舌に言葉の先を遮られた。

甘やかされるように抱かれて、甘えるようにくちづけ続ける。

誰よりも早くお返しを貰えたからいいか、と、式部は甘い夜に
溺れていった。


―The end―






P.S.
甘やかしすぎ.。。
けしからん(笑

ホワイトデーから1週間も
遅れてしまいましたが、
ホワイトデー前夜という
設定です(汗
09/03/20Fri.


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