―The Previous Night―


落ち着かないように見えるのは。。。気のせいか。

「なぁに、笑太君?」
何度かちら見していた視線に気付いて、清寿が微笑む。
いつもと同じ。。。か?
「なんでもない」
「?」
小首を傾げてもう一度笑い、顔を前に戻す。
血液で汚れた制服を脱いで、クリーニング済みのものに
袖を通す。
清寿も普通に着替えているように見えるのだけど。
「。。。さっきから何、笑太君?」
気配をいくら殺しても、こちらが気にしているのを清寿は
察してしまう。
「いや。別に」
俺を見て、微かに口角を上げて笑う。
「早く終わらせて帰ろう。夜になったら雨が降るかもしれ
ないって云ってたよ」
云い終えて、にこっ、と目を細めた、その表情(かお)の奥
に隠されたモノまでは、まだ読めない。
「報告終わったら帰っていいからな」
瞳を見開いて唇を軽く開いたままで、清寿は横から俺を
凝視した。
「待ってるから。一緒に帰ろう?」
縋るような目をして、まるで懇願するように云う。
「三上さんと話があるから、先に。。。」
清寿は大きく頭を左右に振った。
「待ってる」
「なんで?」
「だってホラ、雨降り出しそうだし」
泣きそうな表情(かお)?
「今日は自分ちに帰るから、待ってても。。。」
「でも。待っていたい」
「だから。なんで?」
イラ立ちと共に徐々に口調が荒くなる。
「笑太君、傘持ってないでしょ?」
「傘なんてどうにでもなる」
「だって」
俯いて前髪で表情を隠し、固く口を閉ざす。
「だって?何、清寿」
呆れながらも、その理由(ワケ)は気になる。
今日は朝からお前が落ち着かない感じだったから俺まで
一日落ち着かなかったんだなんて格好悪いから、決して
口には出さない。
「だって。。。」

俺以外にはいつも通りに笑ってみせているクセに、
俺を見る時だけ何故そんな表情(かお)をする?

「。。。意味分かんねぇよ」
すると清寿が意を決したように顔を上げた。
「笑太君っ」
ノド元に伸びてきた手でいきなりネクタイを捕まれ、抵抗
する間も無く手前に引かれた。
「な。。。っ!?」
驚いて開いた口元に清寿の唇が触れて、離れた。
「何だよ?!一体。。。!」
ネクタイを再び引かれて唇が押し当てられて、その先の
言葉を封じられる。
差し込まれてきた舌を絡め取り、戸惑いながらも深く濃い
くちづけで応える。
俺の顔にそっと触れてきた手を取り、指を絡めて互いの手
のひらを握り締め合う。
「ん。。。っ」
甘い吐息を漏らす清寿の口の端から、飲み下しきれない
唾液が溢れ出した。
「はぁっ。。。ふ。。。っ」
下がりそうになる細い顎をもう片方の手で下から持ち上げ
ながら、唇を吸い続ける。
顎から首筋をなぞるように襟元まで進めた指で、きちんと
きつく結んであったネクタイを緩め、シャツのボタンを外す。
びくっ、と全身を震わせると、清寿は反射的に、まだ俺の
ネクタイを掴んでいた手を強く握った。
「ってぇ!清寿、手離せ」
弾かれたように、手が離れた。
「あ!ごめんっ!苦しかった?!
当たり前だろ!と答えようとした口にまた唇が重ねられて
きて、怒る気力を完全に殺がれた。
「で?!清寿っ」
「なぁに?」
両方の肩を押さえて、これ以上キスで誤魔化されないよう
に距離を取る。
「お前、朝から変だったぞ。何がしたいんだ??」
呆れ顔で云う俺を見て楽しそうに声を上げて笑って
から、真面目な顔になった。
そしてロッカーの前で屈み込み、何かを取り出した。
「これ、渡したいと思って」
小さな箱を手の上に乗せて、こちらへ差し出した。
「。。。何?」
「チョコレート。バレンタインの」
毎年のことながら、完全に忘れてた。
「あ〜、あ。。。でもバレンタインって明日じゃね?」
「そう。だけど明日じゃ他の人のと混じっちゃうでしょ。だから
一日早くあげちゃえーって」
綺麗な微笑みに、脱力させられる。
「。。。バーカ。混じるかよ」
頭を上から軽く叩くと、嬉しそうに肩を竦めた。
「どうやって渡したら喜んで貰えるかなって、朝からず〜っと
悩んでたんだ」
それが、落ち着かない感じ、の原因か。
「キスなんていつもしてるけど、こうやって改めてだとドキドキ
するね」
頬をほんのり赤く染めて、照れたような笑顔で云う。
「。。。」
そんな顔をされたら、俺の方が照れるだろ。
「。。。嬉しくない?」
真っ直ぐ見詰める視線から、目を逸らす。
「や、すっげ、嬉しいよ」
逸らした視線の先に、わざわざ入ってこようとする。
「なんか嬉しくなさそう。。。」
気付けよ、バカ清寿。
「そんなことない。ただ。。。」
「ただ?」
「明日まで我慢出来ない」
片手で顎を掬い上げ、もう片方の手でチョコを受け取ろうと
したら。
「待って。まだこれ、渡さないよ」
唇まであと少し、の所で、固まった。
「え?!なんで??」
にっこり笑って、清寿が俺の背後を指差した。
「あ!。。。羽沙希は?」
俺のを挟んで清寿とは反対側のロッカーの前で着替えていた
筈の羽沙希が、いつの間にか姿を消していた。
「途中で出てった。廊下で待っててくれてるんじゃないかな?」
「途中って。。。どこだよ?」
「笑太君が舌を絡めてきた辺り?」
俺の反応を見ながらシャツのボタンを掛け直し、ネクタイを
きゅっと締め直して、ふふふ、と笑う。
「だから帰る時に2人きりになってから渡そうと思ってたのに、
笑太君急かすんだもん」
こういう時の清寿は、意地が悪く見える。
「ちゃんと渡したいから、やり直しして良い?」
ねだるように軽く顎を上げて目を閉じた清寿の唇に、了解の
返事代わりのくちづけをする。
「早く任務完了報告に行かないとだね」
俺の襟元とネクタイを直し終えて肩口を払うと、仕事モードに
戻った顔で云った。
「帰り、遅くなるぞ」
「いいよ。待ってる。。。待ってて、いいよね?」
やられっ放しは悔しいが、甘ったるい予感には所詮敵わない。
「ああ。待ってろ」

つくづく甘いな俺。。。
いいか。明日はバレンタインだし。

頭の中で考えたそんな云い訳もお見通しだというように、清寿
は俺を見上げて楽しそうに笑っていた。


―The end―






P.S.
バレンタイン前日の話。。
間に合わず当日にUPに
なってしまいました。
スランプです。。(涙
バレンタイン当日の話は
Affair〜の方へ。
これも一日遅れそう。。
09/02/14Sat,


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