04. 「お前を泣かせていいのは俺だけだ」


数週間に渡る潜入捜査と処刑を無事に終えた瞬間
よりも、部長室で清寿が笑顔で迎えてくれた時の方が、
終わった、という気がした。

「おかえり、笑太君」

法務省を出てかなり歩いた、人通りの途切れたところ
で抱きついてきて、耳の真横で囁く。
鼻腔いっぱいに吸い込んだ髪の香りに、軽く酔う。
「おかえりなさい」
返事を訊くまで何度でも云う気かな。
「おかえり。。。って」
こりっ、と耳の軟骨が鳴った。
「イテッ」
噛むなよ。
「まだただいまって云ってくれてないよ」
清寿にしては大胆なのは、それだけ待っていてくれた
ということか。
「まだ家に帰り着いてないからな」

涙の膜の向こうで、瞳が揺れた。

「そう。。。だね」
背中に回されていた腕から力が抜けて、身体の間
に僅かな隙間が出来る。
「清寿、上見て」
不思議そうな表情をしながらも、清寿は顔を真上に
向けた。
「もう少し下」
物問いたげに瞳を丸く見開いて、顔の角度を少し
だけ変えた。
「このくらい?もっと?」
軽く首を傾げて開いた口元に、唇を押し当てた。
後ろへ逃げようとする頭を押さえて、舌を深く挿し入
れる。
応えるように舌を舐め返されて、胸元から上がって
きた手のひらが、俺の顔を左右から包み込む。

周囲の音も人の視線も消えて、
求め合う息遣いだけが全てになる。

疲れて下がってきた顎を下から親指で持ち上げる
ようにして、しつこいくらいに唇を重ねる。
「唇荒れてんな」
「笑太君こそ」
ぷぷっ、と清寿が笑い出した。
「何だよ?」
「これじゃモテてはなかったな、って思って安心した」
髪の上から背中を抱いていた手に、力が入る。

「清寿、お前は?」

笑いを引っ込めて、真面目な顔になった。

「ずっとひとりで待っててくれた?」

不安気に、視線が彷徨った。
「うん。。。」

見抜かれると分かっている嘘は悲しい。
つく方も、つかれる方も。
清寿に誰かと共に居ることを切望していると気付か
せてしまったのは俺で、抱かれて疲れて眠ることを
教えたのも俺だから。。。
一緒に居てられない間に誰と居て誰に抱かれようが
それは自業自得だと諦めるしかないと、自分自身に
もつき続けている嘘がある。

肩の上に、清寿の頭が、こつん、と乗った。
後頭部に頬を擦り寄せて、覆うように手を添え、
息を殺して俺の次の言葉を待っている清寿に云って
やる。


「お前を泣かせていいのは俺だけだ」


頷くように首が動いて、小さな吐息が、肌を掠めた。


―End―



2つのお題。。
交互に読んでくださいね。
ビミョウに話や設定が
続いてますので。。
09/01/05Mon.


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