―Winter Tales vol.3


湯気で曇った窓を掌で拭いて、外の景色を眺める。
昨日の昼間から丸々一日降り続いていた雪は、
とりあえず止んだみたいだ。
「やっぱ出掛けんの止めれば?」
面倒臭がりで寒がりの君が、渋るのは分かってた。
「折角の雪景色なんだから、外出たい」
僕に笑顔でねだられると断れないのも分かってる。
「しょーがねぇーなぁ。。。」
渋々と身支度を始めた笑太君の首に、マフラーを
巻き付ける。
「俺はいいから。自分の支度ちゃんとしろ」
「はーい」
ふっ、と、鼻で笑ってクローゼットから出してくれた
帽子を僕の頭に被せて上から、ぽんっ、と叩いた。
「マフラーは?」
自分は手袋を嵌め終えて、まだコートのボタンを
留めていた僕の方を覗き込む。
「今日は笑太君と色違いのにしよっかな」
「ん。ほら」
髪の毛の上からぐるぐる巻かれた。
「髪、切らねぇの?」
いつもかなり伸びてから訊くけど、それってわざと?
って訊き返したくなる。
「今は伸ばしてるとこ」
冬は長いのがいいとか、云った本人が忘れている
ような小さな事でも、僕は大事に覚えてる。
「春になったら切ろうかなって思ってる」
「切んなくていいよ」
え?と見上げた僕の全身を上から下までチェック
して満足気に笑った顔に、どきっ、とする。
「前に腰ぐらいまで長かった時あったろ?」
片手をひらひらと腰の辺りで動かした。
「あー。でもあの時はエクステだったんだよね」
そんなに長くしてたのはもう随分前だ。
「エクステは嫌なんでしょ、笑太君?」
「やだな。撫でた時指に引っかかるから。それに」
あまりに返事が早くて、可笑しくなる。
「髪、綺麗だから。切るなよ」
急に真剣に云われると、また、どきっ、と心臓が
跳ねる。
「うん。。。了解」
「ちゃんと手袋して」
今日の笑太君はなんだかお父さんみたいだ。
「。。。?なんだよ?」
忍び笑いを気付かれてしまった。
「ううん。なんでもない。手袋、取って」
「あ、これか。ほら」
笑太君の方が近い所に居たから取ってくれるだけ
で良かったのに、はめてくれようとしている。
「何してる?」
内心戸惑って引っ込めそうになった手を握って
自分の前へ引き寄せ、片方づつ丁寧にはめて
くれた。

これじゃお父さんじゃなくてまるで。。。
普通のカップルの、彼氏みたい。。。だよ?

「準備OK?」
訊かれて、頷く。

開いたドアの向こうは、白い世界。
真っ白な世界は僕達の背負っているものまで
浄化してくれそうで好きだな。

「どこ行きたいんだ?」
「公園―っ!」
レザージャケットのポケットに両手を突っ込んで
寒そうに肩をいからせて歩く笑太君の横を、早足
で追い越す。
「清寿っ、転ぶぞ」
「転ばないよ。僕の運動神経知ってるでしょ?」
笑太君がついた大きなため息も、真っ白な結晶
になる。
東都には珍しい大雪の後、夕方から夜に移る
この時間に公園の中を歩こうなんて物好きは
僕達くらいしかいないだろう。
希望に近い予想は当たっていて、他に人影は
無かった。


君がいくら面倒臭がったってどうせ今日はずっと
ふたりでは居られない。
夜になったら帰らなきゃいけない日。
だから少し早くうちを出て遠回りしたって、
僕にとっては同じ、なんだ。
明日も明後日も、大晦日もお正月も関係無く
職場では会うけれど、それと、一緒に過ごした
昨日や今日とは違う日、なんだよ。。。


突然目の前で立ち止まって、向かい合う。
「笑太君、今年もどうもありがとう」
驚いた息で曇ったメガネのレンズに、笑顔の僕が
映っている。

よし。ちゃんと笑えてる。

「来年もずっと、一緒に頑張っていこうね」
飛びつく様に抱きついて、何か云おうとした笑太君
の口を塞ぐ。
氷みたいに冷えた唇に、温かい息。
僕の身体を抱き留めてくれた、優しい腕。
泣きそうだけど、まだ、笑える。
「また明日!バイバイ、笑太君」
毎年最後に見せるのは笑顔、って決めている。
「清寿っ」
背中を向けたところで呼ばれて、振り返る。
「また明日」
笑太君がどんな表情(かお)をしているのかなんて
見ないで、微笑みを返す。

ちらちらと、また細かい雪が降り始めた。
だから急いで帰る、みたいなフリをして駆け出して
いた。


―The end―






P.S.
リアルタイムっぽく。。
年末の話で冬の話は
ひと区切り。
ホントは笑太より男前な
性格してると思うのに
清寿が乙女に
なってる。。?
08/12/30Tue.


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