―Missing Link―


携帯が震えた。

真夜中の、いつもならとっくに眠っている時間に。
だから手の取る前に、誰からの電話か分かっていた。
「もしもし?」
出るとは思っていなかったようで、一瞬の沈黙があった。
『あっ。。。笑太君?』
ためらいがちに俺の名を呼んで、また沈黙。
「どうした?何かあったか?」
口から離してしまったのか、息遣いすらも聞こえない。
「式部清寿」
『は、はいっ』
ぴんっと背筋を伸ばして座り直した様子が見えるよう
な返事に笑ってしまう。
「何黙ってんだよ」
『だ、だって本当は。。。傍受されてるかもしれないから
携帯もダメだって柏原班長が。。。』
徐々に弱くなってゆく声。
「掛けてきてんじゃねぇか」
目を伏せて言葉を選んでいるのかな。
『うん。。。ごめん』
じれったい間。
『どうしても声が聴きたくなって。直ぐ切るから』
「切んなよ」
息を深く吸い込んだ音。
「どうせ掛けてきたんだから、もっと喋れよ」
『。。。うん。。。』
遠いな。
答えが返ってくるまでのほんの数秒が、長く感じる。
「元気にやってる?」
『うん。僕も羽沙希君も他のみんなも元気』
言葉が途切れる。
「任務は?」
『ダイジョブ。ちゃんとやってる』
「まぁな。そこんとこはお前を信頼してるから」
『。。。ん。頑張ってるよ』
「最近、どんなのあった?」
もっと話させたくて、言葉を投げてやる。
『あのね。あ、でも、ここで話したらダメか。。。』
「いいだろ。終わった任務に関してなら」
『そう。。。?』
人差し指を唇に当てて迷ってるところ、だろうな。
「話したいこと、いっぱいあんだろ?」
『うん。いっぱいある。どれから話そうかな。。。』
「考えてから電話しろよ」
『だ、だって。。。出ると思わなかったから』
「じゃあ掛けんなよ」
『ごめん。。。』
「あはは。真面目に謝んな。何か話して」
『え、えと。。。笑太君がお休みに入った日にね』

自宅待機が命じられて数日。
よりによってclownの監視付きだから近所へでも
出掛ける訳にいかず、家でだらだら過ごしている。
おかげでリストラになったと思い込んでしまったタマに
腫れ物にでも触るみたいに扱われて正直辟易して
いるけど、言い訳も出来ないから放置。
気にしないことにした。
俺が出勤出来ない間も清寿と羽沙希が任務を
こなしてくれていて、毎日定時に入れている連絡で、
問題なくやってるよ、と五十嵐から聞いていた。

『でね、昨日は。。。』

電話の向こうで清寿が一生懸命話してくれている。
聞こえているけど、内容は頭に入ってこない。
それでも時々適当に相槌を打って、話を続けさせる。
もっと声を聞いていたくて。
任務のことは心配していない。
俺が居るより上手くやっているだろう。
心配なのは清寿が暴走していないか。
寂しい時間を他の誰かで埋めようとしてないか。。。
潜入任務で長く会えないというのは何回があった。
でもその時は期間の予測がついていたり、死刑囚を
処刑すれば終りだったり、ここまで、というのが明確に
なっていた。
今回は。。。先が全く見えてこない。
いつまでこうやっていればいいのか。
その間に清寿を失ったりしてしまわないか。
気付いてしまった独占欲が、自分でも呆れるくらいに
日に日に肥大してゆく。

携帯に添えている手じゃない方、空いてる腕で空を
掻き、清寿を想いながら引き寄せる。
そこに居もしない清寿の髪を掻き上げ、匂いを嗅ぐ。
電話を介して聞こえてくる声を耳元で話している声
だと自分に思い込ませ、せめてほんの少しでも傍に。。。

『。。。笑太君。。。』
「。。。ちゃんと聞いてるよ」
言葉が途切れた。
そして、しゃくりあげるような音。
『笑太君。。。』
「ん?」
『。。。会いたい。。。会いたいよ。。。』
泣き出して、掠れる声。
自分の肩を抱いて、小さく蹲るように座っている姿が
脳裏に浮かぶ。
抱き締めて、安心させてやりたい。
『笑太君。。。会いたいよぉ。。。』
それが出来ない今、俺に出来るのはたったひとつ。

「ありがと、清寿」

くすん、と鼻を啜った、微かな音。
息を殺して、次の言葉を待っている気配。

「その気持ちが、最高のプレゼントだよ」

声を殺して泣き出した、そんな呼吸音。

「メリークリスマス。それが云いたくて電話してきたんだろ?」
『毎年この日は別々だから大丈夫だと思おうとしたけど。。。
無理だった。ごめん』
涙で何回かつまりながらも、明るく云おうとしている
のが伝わってくる。
嬉しくて、顔が綻んでしまう。
「俺さ。。。プレゼントも用意してたんだぜ」
『えっ!ええっ?!』
「おま。。。驚きすぎだろ?それ」
笑いながら云うと、清寿もくすっと笑ったようだ。
「自宅待機が終わったら、渡すからな」
顔が見れないのが悔しい。
『うん。楽しみに待ってる』
きっと、綺麗な笑顔を浮かべているだろう。
「今部屋のどこに居る?」
『ベッドの横に寄りかかって座ってる。あ、アロワナも元気に
してるよ』
水槽が見える所か。
「ベッドに上がって」
体重がかかって、ベッドが軋む音。
『上がった』
「布団に潜りこんで」
布が擦れるような音。
『お布団の中に入った』
「今年は雪、降ってる?」
『ああ、笑太君の部屋、窓無いんだっけ?』
「そう。寝たまま空が見れてお前んとこはいいよな」
『雪は降りそうにない。満天の星空』
「俺の枕、近くにある?」
ぽすっ、という軽い音は、枕を叩いた音、だな。
『ある。いつも抱っこして寝てる』
笑みが、零れる。
「じゃあそれいつもみたいに抱いて」
『うん』
「携帯を枕の上に置いて。耳の近くに」
『う、うん。。。』
「眠れるまで話聞いててやるよ」
『う。。。』
「身体冷えてんだろ?風邪ひくからそこで喋れ」
『。。。っ』

押し殺した泣き声がしばらくしたら寝息に変わって、
小さく、清寿、と呼んでも返事が返ってこなくなった頃、
ひっそりと携帯を切った。

静かに更けていく聖なる夜に繋がった想いだけを抱き
締めて、俺もやがて眠りに落ちた。


―The end―






P.S.
笑太が自宅待機中の
クリスマス。
羽沙希のとこでご馳走作って
食べた後、帰ってきて、
寂しくなってしまった
イヴの深夜。。
という設定で。
08/12/06Sat.


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