―A Common Day at Sep.21―


少し冷えてきた身体に毛布を掛けてやると、ふわっと微笑みながら
くるんと包まった。
猫みたいだ。
動物なんか飼ったことないから良くは分からないが、なんとなく似てる
んじゃないかなと、
いつも思う。
青黒い艶のある毛並みの、紫色の瞳の猫。
そんなの存在しないんだろうけどな。

幸せそうな寝顔してる。。。

最近は笑太君のおかげで薬を飲まなくても眠れることが多くなったよと、
部屋に来る度に睡眠薬の残りをチェックする俺に、にっこりと笑いかけ
ながら云った。
その言葉の裏側には、俺が居ない夜は眠れない、という事実が隠され
ている。
何日も来れないと顔色が悪くなってくる。
けれど決して俺を責めようとしない。仕方ないよ、と、耐えようとする。
感情を抑えて我慢して諦めて。
両親を殺されてからずっとそうやって生きてきたんだろう。
薄く開いている唇に、親指で触れる。
軽やかな寝息の温もりが愛しかった。
顎の線をなぞるように、頬に触れる。
髭なんか生えそうにない、柔らかい肌。

軽く唇を合わせると、微笑んでくれたような気がした。


次の朝、珍しく俺の方が先に目を覚ました。

シャワーを浴びてきてから、清寿を起こす。
「清寿、おはよう」
「。。。ん。おはよ、笑太君」
大概俺より遥かに早く起きているのに、今朝は起き上がれないようだ。
「起きれないのか?」
顔まで毛布を引き上げて、とろとろしている。
「う〜ん。身体、怠い」
返事をしながら、ごろん、と寝返りを打った。
「昨日はそんなに激しくしなかったのにな」
「も〜。。。笑太君、体力有り過ぎ」
声もちょっと掠れている。ノドがツラそうだ。
毛布から外に出ている頭を撫でてやる。
「コーヒー、飲む?」
「笑太君が淹れてくれるなら、飲む」
うつ伏せになっているので表情は見えない。
「天気いいぞ」
俺の言葉に大きく寝返りを打って、窓の方に顔が向いた。
「ホントだ〜、まぶしい」
「どっか行きたいとこがあったんじゃないか?」
「そんな事、云ってたっけ?」
コーヒーを注いだカップを二つ片手に持って、キッチンからベッドまで運ぶ。
「ほら」
「ありがと」
胸元から手だけを出した清寿にカップを渡すと、はにかんだような笑みが
返ってきた。
「で。今日どうする?」
ベッドの上、清寿の横に腰掛けて、並んでコーヒーを啜る。
「何もしない」
俺を見上げて、にっこり笑う。
「折角の非番なのに?」
「うん。お休みだから」
カップに視線を落として、呟くように続けた。
「笑太君と一緒に居たい」
頬に顔を寄せると、微笑みながらこちらを向いた。
「笑太君、お腹空いたでしょ?」
「まぁな」
戯れるように、唇を吸い合う。
「何か作ろうか?」
「いや、何か食いに行こう」
清寿の表情が曇った。
「出掛けたいの?」
空になったカップを取り上げて窓枠に置き、少し尖った唇に、笑いながら
唇を重ねる。
「その格好のまま居られたら、ヤバい」
舌と舌を絡めると、清寿の頬が上気した。
「清寿が欲しくなる」
乱れた髪を更に掻き乱す。
「欲しがってくれてもいいよ」
伸ばされてきた腕が、俺の頭を抱き取った。
「笑太君に欲しいって云われるの、嬉しい」
首筋に舌先を遊ばせて強く吸い、印を残す。
「清寿は?何が欲しい?」
う〜ん。。。と、考えているような唸り声が頭の上で聞こえた。
「笑太君!」
「即答じゃねぇのかよ」
失笑しながら、唇を求める。
「俺なんかで良かったら、お前に全部やる」
「それが本当だったら嬉しいな」
清寿は少し悲しげな微笑みを浮かべて俺に身体を委ねてきた。
眩しいお日様の下で抱き寄せると、太陽の香りがする様だった。

「いい顔、してる」
真横で清寿がまた、猫みたいに丸くなって眠っていた。
寝顔を見ると、安心する。
「ん。。。」
「目、覚めたか?」
愛し合っては眠り、起きては愛し合って。
それを繰り返しているうちに、陽が暮れてしまった。
「暗くなってる。。。もう夜?」
額の中央に、ちゅっ、と、くちづける。
「。。。本当にこれで良かったのか?」
「?」
寝呆けた顔で、清寿が頚を傾げた。
「何もしてやらなかったけど。。。」
にこっ、と、極上の微笑みが返ってきた。
「今日一日、僕のわがまま聞いてくれてありがと」
清寿が指先を伸ばしてきて、俺の口元のホクロを撫でた。

「最高の誕生日だったよ」

ただ一緒に居るだけでしあわせだとか、他人(ひと)を愛する気持ちとか、
清寿が思い出させてくれる感情は優しくて穏やかだ。
「清寿」
「何?」
上半身を起こして座り、小首を傾げて俺に微笑みかける。
「来年もこうやって過ごそう」
「うんっ」
子供みたいに抱き付いてきた身体を受け止めて、じゃれるようにくちづけを
交わす。
「来年だけじゃなくて再来年も、その先もずっと。。。笑太君、約束して」
笑顔のままで、瞳が微かに曇った。

俺達は、
己の寿命が長くない事を悟っている。
だからそんなに長く一緒に居れないという事も知っている。。。

「ああ。約束する」
飽きずに互いを求め合っているうちに溶け合ってしまえれば、離れずに済む。
「とりあえず来年も非番にするか有休取ってね」
変なとこリアリストなんだよな。
つられて笑って、後頭部を掴んで引き寄せた。


                      ―The end―






P.S.
もうひとつの清寿の誕生日の話。。
かなり前に書いたのですが。。
本編でも誕生日話が描かれちゃったので
出しそびれたという。。
特別じゃない特別な日の話。
2008/11/10Mon.


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