―Hallowe'en Night―


「わっ!」

驚いた俺の声に、清寿がキッチンから顔を覗かせた。
「清寿っ!なんだコレ?!」
ヤケににこにこしてやがる。
「笑太君、おかえりなさい」
菜箸持ったまますたすたと近寄ってきた。
「三上部長との話、長かったね」
可愛い顔して、ちゅっ、とでもすれば何でも許される
と思ってるらしい。
「で?コレ、ど〜ゆ〜状況なんだ?」
両肩を掴んで身体を引き離し、それでもまだ笑顔
の清寿に問い質す。
「え?分かるでしょ?」
「分かんねぇよ!」
こっちは真剣に訊いてるのに、清寿は口に手を当
てて必死に笑いを噛み殺している。
「清寿っ!!」

「Trick or Treat!」

目の前には満面の笑みの清寿。
その背景のベッドの上には。。。色鮮やかな包装の
キャンディか何かが一面に散らばっている。
「今日、ハロウィンだから♪」
「俺に選択権無いのかよ」
清寿のうちは玄関から入るとベッドがあって、その横
にクローゼットがあるから、もっと奥にあるキッチンとか
リビングに行く前に必ずベッドが視界に入る。
「そう云や藍川のあの笑ってるカボチャ、今年もあち
こちに置いてあったな」
「笑ってるカボチャ、って」
ぷっ、と、清寿が吹き出す。
「あそこにこの前から置いてあるよ」
指さされた先で、小ぶりのオレンジ色のカボチャが
笑ってやがった。
「藍川隊長が、副隊長だけにあげる、って」
ひねくれた事を云いそうになった俺の口の真ん中に、
清寿の人差し指が、ぴん、と立てて当てられる。
「ジャック・オ・ランタン。笑ってるカボチャじゃなくて」
笑太君って頭いいのに興味無いことは覚えてくれ
ないよね。。。と小声で呟いて、目を細めて笑う。
「。。。っんなの知ってるけど、面倒臭ぇ」
「あは。笑太君らしい」
やたらと嬉しそうなのが、憎たらしい。
「これね。。。実は羽沙希君にも仕掛けたんだ」
「えっ」
ベッドの上にか?!と出かけた言葉を飲み込む。
俺が来ない日は羽沙希のとこに頻繁に行っている
のは知ってたけど、そんな関係じゃないと思ってた。
「今朝、笑太君が来る前にね」
俺の顔色見て、くすっ、と上目遣いで笑ってから、
種明かしするように話し出した。
「いつもよりも早く出勤して羽沙希君のロッカーに
お菓子をいっぱい詰め込んで来るの待っててね。
おはようございます、って開けたらガサガサガサーッ
って落ちてきて、羽沙希君すっごく驚いてた」
「そりゃあそうだろうな。。。」
「羽沙希君のあんな慌てた顔、初めて見た!」
その情景が目の前に浮かぶようで、身体の底から
太い息を吐き出す。
「羽沙希も災難だな。。上司は選べねぇからな」
「それ、まるごと笑太君に返すね」
目を瞑って顔を軽く上げて、いかにも誘ってる唇。
どうやらこの話題はここでお終い、らしい。
せめてもの抵抗で深いくちづけを返し、甘い溜め息
を吐かせる。
「僕、肌とか髪とかベタベタするのヤダ」
キャンディの海に沈めようとしたら、かわされた。
「このお菓子笑太君にあげるから、全部拾ってね。
もう少しで夕飯出来るから、その間によろしく」
「。。。」
猫が身を翻すような仕草でキッチンに消えていった
後ろ姿にひとつ深く溜め息をついて、ベッドの上の、
良くこんなに。。。と呆れるほどの量の飴やチョコを
ひとつひとつ拾い集めた。

「ん?。。。清寿!」

なぁに?と気の抜けそうな返事が返ってきた。
「もしかして。。。今日も?」
あははは!と軽い笑い声が聞こえてきた。
「そ。今日も」
「お前さ〜。。。毎日は無理だって」
ベッドの周りに落ちていたのまで拾い終えて、やっと
楽な格好に着替えてソファに深く腰掛ける。
「え〜!僕はまだ若いから平気だよ」
「。。。おまっ。。。何の話だか分かってんのか?」
大きな皿を両手で運んできた清寿が艶やかに
微笑む。
「分かってるよ?カボチャの話」
「若いとか関係ねぇだろう?ってか、ここんとこ
俺が来る時はいっつもカボチャ使った料理なん
だけどさ」
「居ない時もカボチャ料理だよ」
完全に清寿のペースで会話が進んでる。。。
「。。。っんでカボチャばっかそんなにあんだよ?」
「今日はカボチャのそぼろ煮!」
「。。。」
先刻の悪戯で脱力してしまったからどうも自分
のペースに持っていけなくて、イラッとしてきた。
食卓の用意をしていた清寿を察知する。
「カボチャね、上條隊長がくれたんだ」
「上條が?カボチャ?!」
話がどうやっても繋がらない。
「お願いだからもう少し分かり易く説明してくれ」
文句は云っていても、美味そうな料理が目の前
に並べられると、腹が鳴る。
「藍川隊長がジャック・オ・ランタンを作りたくて
上條隊長にカボチャを買ってきてって頼んだら、
藍川隊長が欲しかった小さいのじゃなくて普通の
買ってきちゃったんだって」
「上條。。。藍川のパシリかよ。で、上條が困って
料理しそうなお前のとこにそれが来たって訳か」
「流石笑太君!だから今夜もカボチャだよ」
これ開けて、とばかりに、キンと冷えたワインボトル
と、ソムリエナイフが手渡された。
「ワイン?」
「そ。白ワイン。これはカボチャの煮たのに合うの」
疑惑の目を向ける俺に、一見無垢な瞳で云う。
「笑太君は呑みたくない?」
清寿から呑もう、と云い出すのは珍しい。
「いや。いいけど。なんかいつもと違うなって」
「ハロウィンだもんっ」
にっこり。
真意を読みづらくする、スキの無い笑み。

なんだか今夜は調子が出ない。。。

料理もほ食べ終わった頃、ワインの壜も空いた。
「ねぇ、笑太君」
「ん?」
淡く頬をピンク色に染めた清寿が、並んで座って
俺の膝のにじり寄ってきた。
くちづけまでカボチャの味。
ただ甘いようで、甘いだけじゃない。
肩に腕を伸ばして縋りついてきて、耳元で囁かれる。

「Trick or Treat or me?」

背筋がぞくぞくした。
酔ったフリして俺の頭を両手で挟んで持って、
顔や髪にキスを降らしてくる。
「清寿、酔ってんのか?」
「ん。。。気分いい」
清寿も俺もザルだから、酔った姿なんか見たことない。

「Trick or Treat.or me?」

酔ったフリの、舌足らずな英語の発音。
「笑太君にも選択権をあげる」
返事の代わりに、くちづけながら襟を抜く。
「ベッド、行く?」
「ここでいい」
清寿が俺の素肌に触れて、抱き締めてきた。
「大胆だな」
「そう?ハロウィンで地上に戻ってきた死者の霊に
のりうつられてるのかも?」
ふふふ、と笑っている顔も妖艶で怪しげ。
「それサイアクだろ。どいつんだよ?」
こんな風に誘われるのも悪くないけどな。

「なっ!」

「折角片付けたんだから、あっち行くぞ」
抱き上げた途端しがみついてきた清寿を抱えて、
ベッドの上へと運ぶ。
「笑ってんなよ」
「え?何、笑太君?」
「や、お前にじゃない」
甘いよ、と、テーブルの上に場所を移されたカボチャ
に笑われてるみたいでちょっとムカついただけだ。


―The end―






P.S.
ハロウィンなんて
笑太にしたら多分
ど〜でもいいんだろうな。。
清寿だけ盛り上がってそう。
08/11/01Sat,


Back