―Thoughtfulness Day in Oct.29―


「ゴキゲンですね。。。」
「ああ。ホントに」

御子柴隊長が、ロッカーに向かって、はぁぁ。。。と大きく
溜め息をついた。
「着替えるんですか?」
任務を終えて現場から帰ってきて、いつもなら真っ直ぐ
部長室へ報告をしに行く。
少しぐらいの汚れならいつものことで、かなりの汚れでも
普段はそのまま行ってしまう。
「清寿が“白”着るって云ってんだから、仕方ねぇだろ。
色違いで行くワケに行かねぇし」
処刑は1件だけだったし、野外に誘い出して式部隊長
のワイヤーで止めを刺したから、今日はカーキの制服も
そんなに汚れていない。
なのに、それでも着替える!と式部隊長は云い張った。

「今日は特別な日だから“白”じゃないとダ・メッ」

文句を云いかけた御子柴隊長の目の前に人差し指を
立てた手を突き出して、云い聞かせるように一言一言
区切るように云って、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
そしてこちら2人共言葉を失っている間にさっさとカーキ
のコートを脱いで赤ネクタイを外してシャツの前をゆるめ、
バスタオルを腕に掛けた。
「シャワー使うなら俺も。。。」
御子柴隊長の言葉を途中で遮って、ぴしゃりと返事を
返してきた。
「今日は笑太君は後。羽沙希君と一緒に使って」
シャワーブースは2つしかないから、大概先に御子柴隊長
と式部隊長が使い、後から僕が使う。
「あ?待てよ!」
「じゃ、お先にね!」
もう一回、にっこり笑ってシャワー室へと消えて行った。
「ったく。。。」
そう云いつつ、御子柴隊長はそんなに迷惑そうじゃない。
「何かいいことでもあったんですか?」
僕を横目で見て、口元のホクロを上げるようにしてゆっくり
笑った。
「ん?なんでだ?」
「いえ、なんとなく。あと、特別な日だとか?」
僕の前では五十嵐課長や柏原班長が云う程いちゃつい
たりはしていなかったけど、朝から2人共機嫌が良かった。
御子柴隊長は何も云わずに目を細めると、前を向いて
コートを脱ぎ始めた。
「式部隊長、シャンプーか石鹸変えましたか?」
「ん?変わってなかったけどな」
昨晩御子柴隊長が式部隊長の家に泊まったのは知って
いる。
「そうですか」
じゃあ気のせいかな。。。
「御子柴隊長も、いつもと違う匂いがしてますが?」
くんくん、と鼻を寄せて香りを嗅ぐ仕草をすると、大笑い
された。
「お前はそういうのは鋭いな」
「いつもより甘い匂いです」
青い瞳が上を向いて、何か思い当たったかのように僕の
方を向いた。
「そうか?」
知らばっくれる気らしい。
それならそれで、別にいい。
「お待たせ〜!お先でした」
濡れてしまった髪をタオルで抑えながら、式部隊長が
戻ってきた。
本当に機嫌が良い。
「羽沙希、シャワー行くぞ」
「あ、ハイ」
片手を上げて、式部隊長は笑っていた。

「羽沙希君。はい、これ持って」

部長室から更衣室に戻って来て、私服に着替え終わって
ロッカーを閉めたら、突然式部隊長から紙袋を渡された。
「これ。。。何ですか?」
袋の中を上から覗き込む。
幅12〜3cm、高さも12〜3cm、長さ25cmくらいの長方形
の紙製の箱が入っていた。
「わっ、羽沙希君っっ!ダメ!ダメ!!」
耳の横まで持ち上げて、振って中身の音を聞こうとしたら、
式部隊長が必死な顔をして僕の手を握って止めさせた。
「あの。。。?」
「今日もお見舞いに行くんでしょ?」
一度奪い取った袋をもう一度僕に持たせてくれながら、
式部隊長はにっこり笑った。
「あ。。。はい」
納得いかない声で答えた僕のことを、式部隊長の後ろで
御子柴隊長も笑って見ている。
「じゃ、ね。これは病室に行ってから開けて」
手のひらに渡された袋の持ち手を上から押さえるように軽く
ぽんぽんっと叩くようにして、式部隊長は僕の目を真っ直ぐ
に見た。
「それまで振っちゃダメ。傾けちゃダメ。このカッコのまま静かに
静か〜に持ってって」
意図するところが分からず、じーっと見詰め返していたら、
式部隊長も笑みを消して真面目な顔をした。
「大丈夫。危険物じゃないから」
真っ赤な顔をして笑いを耐えていた御子柴隊長が、本気で
吹き出した。
「あっはっは!羽沙希のそんな顔、初めて見るな」
え。。。?
「俺も保証する。それ、病院持ち込み可だから」
呆然と立ち竦んでいたら、出入口に向かって背中を押された。
「お疲れ様でした。行ってらっしゃい、羽沙希君」
「お疲れ。また明日な」
式部隊長も御子柴隊長も満面の笑みだ。
「そうそう、羽沙希君。今夜僕の声が聴きたくなったら電話
してきてね」
「。。。?」
またもや意味の分からない言葉を掛けられて真意を問い
質そうとしたら、また背中を押された。
「いいからいいから。早く行ってあげて」
今日。。。何かいい事あったっけ?


云われた通りに伊緒李の病室までその箱を静かに持って来て、
壁際に置いてある小さなテーブルの上で開けてみたら。。。
現れたのは手作りっぽいケーキだった。
「!」
忘れてた。。。今日、僕らの誕生日だ。
そんなこと、どうでもいいことなのに。
箱の中いっぱいの大きさのロールケーキの上には生クリームと
フルーツが飾られていて、真ん中にはチョコレートの板にチョコで
書かれた“HAPPY BIRTHDAY”の文字。
細くて神経質そうなこの筆跡は御子柴隊長のもの。
そうだ。。。あの甘い匂い。。。
御子柴隊長からしてたのはチョコレートの匂いだ。
そう云えば式部隊長からはバニラの匂いがしてた。
箱の横にうさぎ柄のメッセージカードが入っていて、こちらの文字
は式部隊長の筆跡。

"お誕生日おめでとう!いつもありがとうの気持ちを込めて。
弟さんと一緒にお祝いしてね!"

カードと一緒に添えられていたロウソクをケーキに立てて、火を
灯す。
それを吹き消した時、ぽた、と、ケーキの横に何かが落ちて、
自分が泣いていたことに気付く。
あの人達はいつも突拍子も無いことをする。
上司としては問題有り。
でも。。。僕は。。。第一で良かったとこうやって思い知らされる。

「もしもし。。。藤堂です」

面会時間終了まで病院に居て、外に出たところで電話を掛けた。
『あ!羽沙希君?お誕生日おめでと〜』
式部隊長が歌う様に云った。
「はい。ありがとうございました」
電話口の向こうで、御子柴隊長の声がする。
羽沙希か?の問いに、式部隊長は、そう、と答えてから矢継ぎ早
に訊いてきた。
『ね、ケーキ美味しかった?形、崩れてなかった?
羽沙希君にはイチゴのショートケーキがいいかなと思ったんだけど、
持ち歩いても大丈夫なようにロールケーキにしたんだけど』
また泣きそうになる。
「美味しかったです。ご馳走様でした」
感慨に浸る間も無く、御子柴隊長の声がした。
『羽沙希、今どこに居る?』
国立東都病院を出て自宅に向かって歩いていますと答えたら。

「居た居た」
「羽沙希君、発見〜!」
「え?!ええっ??」

両側から脇の下に腕を回されて、少し持ち上げられる。
「拉致成功」
「も〜!笑太君はそれじゃ人聞き悪いよ」
爪先が付くか付かないかで、引き擦られるように歩かされる。
「あ、あの〜」
「これからお祝いのパーティしよ。嫌。。。じゃないよね?」
式部隊長にそんな顔されたら、誰も勝てない。
「僕んち来て。ご馳走沢山作ってあるから」
俯いて、顔を隠す。
「羽沙希、泣くな。めでたい日なんだから」
ぼそっ、と、御子柴隊長が呟いた。
「。。。はい」
目に力を入れて顔を上げると、優しい笑顔が2つ、僕のことを
見守ってくれていた。


―The end―






P.S.
Happy Birthday羽沙希♪

部下にサプライズを
仕掛けたくて仕方ない
上司達の話。。
とも云う?(笑
08/10/26Sun.


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