29. 君は笑うだろうか


「おはよ。朝だよ、笑太君」

枕元まで起こしに行くと、くちづけを返された。
「シャワー浴びるんだったらもう起きて」
のそっと起き上がった笑太君は大きな欠伸をして、
ぼんやりしたままこちらを見ている。
「いや、シャワーはいい。昨日風呂に入った」
うん、知ってる。
明け方近くにベッドに入ってきた時、まだ乾ききっ
ていない髪からいい匂いがしてた。
温まった身体に背中からすっぽり抱き締められて、
もう二度と目覚めなくてもいい、なんて思った。
「じゃあ僕、浴びてくる。ごはん先に食べてて」
淹れたてのコーヒーをカップに注ぎ、トーストと
サラダに添えてテーブルに置き、エプロンを取って
バスルームに向かう途中で突然片腕を取られた。
「体調は?」
瞬時に全身が固くなる。
「。。。もう大丈夫」
笑太君の腕を握り返す指先が、震えた。
睡眠薬を飲み過ぎて起きられずに無断欠勤を
したなんて。。。
叱られても当然のことをしでかしたから。
「そうか。なら良かった」
あっさりと、開放された。
お説教されると思っていたから拍子抜けだった。
「早くシャワー浴びてこいよ」
「う。。。うん」
逃げ込むようにバスルームに入って、心臓の上を
両手で押さえる。
バクバクと激しくなった鼓動が、治まらない。


君は笑うだろうか。
昨日来てくれて本当に嬉しかったんだよ、と
伝えたら。
気が惹きたくてしたんじゃないけど、
気にしてくれてありがとう、って云ったら。


「おい」
いきなりバスルームのドアが開いた。
「わっ!な、何?!」
咄嗟にドアの方へ背中を向けて、振り返る。
「あんまゆっくりしてると遅刻するぞ」
普通の表情でそう云うと、笑太君は去った。
。。。もしかして心配してくれた?
吹き出して笑ってしまった。

今日は笑っていよう。
このしあわせが逃げていかないように。

「式部隊長!お体の具合は?」
出勤したら真っ先に羽沙希君が駆け寄って
きた。
「大丈夫。ほら、元気!」
「。。。」
僕の顔を見上げて、ぼーっとしている。
羽沙希君のこんな表情、初めて見た。
「。。。何?どうしたの?」
「安心しました」
安心した表情(かお)かぁ。。。
「心配かけて、ごめんね」
ぎゅ〜っと抱き締めてしまった。

「強いところも、弱いところも、脆いところも、
全部合わせて式部清寿だろ」
隣で着替えている笑太君が、僕にしか聞こえ
ない大きさの声で云う。
「うん。。。」
「強いだけだったら好きにならなかった」
「。。。えっ?」
「バカ。何度も云わせんなよ」
笑太君はバサッと音を立てて、大袈裟な動作
でコートを羽織った。

「お前だから好きになったんだ」

ネクタイを締めながら微笑みを返したら、
笑太君も照れ臭そうに笑った。


―つづく



愛妻家の某さん曰く、
妻が夫に惚れてるより、
夫が妻に惚れている方が
長続きするんだそう。。
08/10/13Mon.

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