27. 面影を追って瞳を閉じた


「ここまで心配させろとは云わなかったぞ」

ふわり、と、身体が浮いて、柔らかいものの上に
下ろされた。
ぼや〜っと濁った視界の真ん中に、笑太君の、
晴れた空と同じ色の瞳が見えた。
「。。。ったく」
最近口癖になってるね、それ。
「おい」
指先で、頬を突付かれた。
「起きてんだろ?」
自分では頷いてるつもり。
「聞こえてねぇのか。。。」
何度も頷いてるのに、笑太君には伝わってない
みたいだ。
「水、飲むか?」
咽喉がカラカラだから声が出ないのかな。。。
全身が重くて、指すら動かすことも出来ない。
しばらく僕のことをじっと見ていた笑太君が、すっ、
と、視界から消えた。
霞んで見えるけど。。。ここ、僕の部屋だよね。
「口、開けて」
笑太君が戻ってきて、云う。
「はい。あーん」
僕の唇の端を突付きながら、目の前で大きく
口を開いた。
そんな子供扱いして。
「仕方ねぇな」
不意にされたくちづけで唇を開かれ、伸ばされて
きた舌で、歯列をこじ開けられた。
「そのままでいろ」
笑太君は口を離すと、手に持っていたコップを煽
るようにして何かを咥えた。
半開きの口元を閉じることが出来ずに、唇の動き
に合わせて動くホクロを目で追う。
顔が近付いてきて唇が押し当てられて、口の中に
冷たい塊が滑りこんできた。
噛むと、かりっ、と、音がして角が砕け、溶けた。
「飲み込め」
懇願するような口調。
自分の咽喉が、こくっ、と鳴ったのが聞こえた。
「もう1個」
唇をこじ開けられて、もう一度口移しで氷を貰う。
安心したような眼差し。
呆れたように吐かれた息。
絡め取られた指先が、切なくて泣きそうになる。
また笑太君が視界から消えて、今度は細長い
ものを持ってきて、僕の額の上に乗せた。
ああ。。。
冷たくて、とっても気持ちいい。
「バカだな、清寿。ウソなんかつくな」
ウソなんてついてないよ。
「羽沙希のとこに泊まるなんて云っといて。。。
行かなかったんだってな」
行こうと思ってたのは真実(ほんとう)だよ。
誰かに傍に居て欲しかったから。
だけど泣き出してしまいそうな気がして、泣き顔
を見られるのは嫌だったから、行くのを止めた。
「薬の飲み過ぎとか。。。止めてくれよ」
。。。え?
「昨夜、いつもの倍、薬飲んでるぞ」
そんな!。。。覚えてないよ。
ただ、全然寝付けなくて。。。
眠れなくて寂しくて、どうしようもなかったことしか
覚えてない。。。

ホントだよ。ウソなんて、ついてない。。。

サラッ、と、前髪を撫でてくれたのは、白い手袋
に包まれた手。

。。。あれ?
なんで笑太君、制服着てるの?

「終わったら来るから。それまで大人しくしてろ」
覗き込んでいた顔が、遠くなる。
しばらくして、ぱたん、と、入口のドアが閉まる音。
遠去かる足音と、走り去る車の音。
あれは諜報課のバンのエンジン音だ。
現場に行く前に寄ってくれたのか。
休みます、って、連絡しなかったからだな。
初めて無断欠勤しちゃった。
部下も出来たのに。。。最低だ。。。

面影を追って瞳を閉じた。

笑太君、僕は本当は強くなんかない。。。


―つづく



鬱ってる清寿。

明るくノリがいいからこそ
落ち込むと激しいかも。。
08/10/13Mon.


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