26. お守り代わりにそっと


「笑太君?」

我に返ると、清寿が上目遣いに睨んでいた。
「ああ、スマン。何の話してたんだっけ?」
瞳を伏せて、聞こえよがしに強く息を吐かれた。
「自分から訊いといて。。。もういいよ」
ブ厚い書類の束を胸の前に抱えて、清寿は俺の
数歩前を歩いていた。
制服の白いシャツから覗くうなじの所に俺が付けた
欲望の跡があって、下を向くと少しだけ見える。
数日前のものだから薄くなってきてはいるが、そこ
にあると知っていると、つい視線が行く。
「これから羽沙希んとこへ行くのか?」
「。。。ちゃんと聞いてるんじゃない」
唇を尖らせて、不満そうな表情(かお)で見上げた。
「この書類仕事を片付けたら行くよ。ごはん作って
あげるんだ」
「夕飯?前は朝飯だけだっただろ?」
「夕食も朝食も」
「泊まってくるのか?」
「朝も一緒に食べるんだから当然でしょ」
「あいつん家。。。ベッドひとつだろ?」
「そうだよ。でもいつも無理矢理一緒に寝てるもん」
「。。。そうか」
清寿が、ぴたっと立ち止まってくるっと後ろを向いた。
エクステを付けて腰の辺りまで伸ばした髪が、身体
の動きに合わせて広がって、落ちる。
「笑太君のせいなんだよ」
人形みたいに整った顔で気迫を込めて睨まれて、
返す言葉も無く息を飲む。
「ずっとひとりだったから、ひとりで居ても全然平気
だったのに。。。寂しいって思わなかったのに。。。」
紫の瞳が潤み出して、表情が歪む。
泣いている姿を見られたくない、と、入隊した頃
云っていた清寿も、俺の前では無防備に泣き顔
を見せる。
省内の廊下であることも忘れて抱き寄せようと
伸ばした腕の間に、今まで清寿が抱えていた
書類が押し付けられた。
「。。。っ?!」
「これ全部本当は笑太君が書いて提出しないと
いけない書類だからっ!」
反射的に、落とさないように受け止める。
「帰る」
「清寿、待て!」
「バイバイ」
パタパタと走り去っていく後姿を見ながら立ち竦む。
「クソッ」


いつも一緒に居てやれない代わりに。。。
お守り代わりにそっと、素肌に跡を残した。
反らされたうなじに、血の色の印を。
こんなとこ僕からは見えないよ、と不満そうに云い
ながらも嬉しそうに笑ったあの顔が、俺にとっては
大切なものになった。
泣かせたくはない。
あんな風に笑っていて欲しい。なのに。。。


「羽沙希の前では泣けるのかよ」
俺が清寿の泣き顔を初めて見たのは、組んで
から何ヶ月も経ってからだった。
「ハハ。。。」
自虐的に笑ってみる。
羽沙希にまで嫉妬するなんてみっともない。
清寿に軽蔑されるのは、嫌われるよりもきっと
ツラい。。。

「上手くいかねぇな」
「。。。っ!!どこから聞いてやがったんだ?!」
「人聞き悪いな〜。お前らが廊下のど真ん中で
イチャついてたんだろうが」

ニヤニヤしている五十嵐を睨みつけても、分が
悪いのは俺の方だ。
「はぁぁ」
本当に上手くいかない。
「不器用だなぁ」
そう云いながら、自分の首の後ろを指で突いて
みせた。
丁度、清寿の首の、キスマークのある辺りを。
「うるせぇ、クソイガグリ」
だから諜報課のヤツはキライだ。
何もかにも知ってるような顔しやがって。
「笑ってんじゃねぇ」
知ってんなら、どうしたらいいかを教えろよ。。。


―つづく



たまには笑太も
羽沙希に嫉妬。
オフィシャルCPは
式羽沙(羽沙式?)
らしいので。
08/10/08Wed.


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