25. 何も言えずに手を取った


「だからお前は無茶苦茶だって云うんだ」

笑太君が怒ってる。
「笑ってんじゃねぇよ」
そんなに怒らなくたっていいじゃない。
「ったく。。。」
呆れた、って表情(かお)。
入隊して直ぐの頃には良くそんな表情されたな。
あの頃のこと、久しぶりに思い出したらなんだか
可笑しくて、自然に顔が笑ってしまう。
「早く殺さなきゃ逃げられちゃいそうだったから」
僕の返事に、返ってきたのは大きな溜め息。
「だからってあそこまで深追いすんのは無謀だろ」
口がへの字になってる。
「。。。笑うとこじゃねぇって」
云いたい事は解ってる。
でも自分は変えられない。
「けど自爆するなんて笑太君も思ってなかった
でしょ?」
本日の任務は連続爆弾魔の処刑。
他部隊の追跡から2週間も逃げ切った死刑囚
は追い詰められた時、処刑されるよりも自殺
することを選んだ。
「そりゃそうだけど」
地面にぺたんと座り込んでいる僕を見下ろして、
もう一度深い溜め息。
云いたいことを飲み込んで、それ以上責めたり
しないのが笑太君の優しさなんだよね。
今度は僕が溜め息をつく。
僕は僕の正義を全うしようとしているだけで、
心配させたいワケじゃない。
笑太君の足元を見て黙っていたら、顎の下に
伸ばされてきた手で掬い上げるように上を向か
された。
「またケガしたな」
指で撫でられた右頬に痛みが走る。
「切れてる?」
「いや。擦り傷」
なら大丈夫。そう思うのに。
どうしてそんな痛そうな表情(かお)をするのかが
解らない。
「処理班呼ぶね」
「俺が連絡する」
左手で携帯を取り出して電話を掛けながら、
肩膝を付いて右手で僕の顔面を擦っている。
爆風を真正面から浴びたから煤とか付いている
様で、笑太君の白い手袋が黒く染まっていく。
「笑太君、そんな風に擦ったら痛い」
電話を切った笑太君が、ハッとしたように指を
止めた。
「ああ。すまない」
じーっ、と、見詰めていたらそれに気付いて照れ
臭そうに笑って誤魔化した。
「ねぇ笑太君」
「ん?なんだ?」
「そんなに心配しなくたって大丈夫だって」
驚いて、見開かれた瞳(め)。
「僕はそんなに弱くないよ」
笑太君は僕の言葉を聞き終わってから一拍置き、
全身を使うように大きく太い息を吐いた。
「だからお前は。。。」
一回閉じた瞳が開かれて、僕を正面から捉える。
「お前が強いのは知ってる。けどな」
灰色に汚れてしまった手袋を脱いだ笑太君の手
が、目の前に突き出された。
僕も慌てて部分的に黒く焦げていた手袋を脱ぐ。
「。。。心配くらいさせろよ」

僕はまた忘れていた。
もうひとりじゃないってことを。。。
何も言えずに手を取った。

重ねた手を強く掴まれ引かれて、立ち上がる。
笑太君の手のひらはしっとりと汗で濡れていて、
どれだけ心配してくれていたかが伝わってきた。
「笑太君。。。無茶してごめん」
「。。。全くだ」
呆れた表情(かお)だけど、口元は優しく微笑
んでいる。

「ホントに変わってねぇな、昔っから。。。
そういうところが放っとけないんだ」

独り言みたいな呟きでも、聞き間違えはしない。
「笑うなって」
笑ってないと泣き出してしまいそうなんだよ。。。



―つづく



羽沙希君が
居るって
忘れてた(汗
08/10/05Sun.


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