24. 簡単なその言葉でさえ


「清寿っ!」

御子柴隊長の鋭い声が飛んだ。
式部隊長は、ハッ、と顔を上げて、僕の首元
を押さえていた腕の力を弛めた。
「わっ!羽沙希君、大丈夫?!」
答えようとしたら声が出なくて、ケホッ、と空咳
がひとつ出た。
「。。。だいじょうぶ。。。です」
圧倒的な強さに反撃も出来ず、殺られたっ!
って一瞬思ったけれど。
合わせた両手の向こうに、申し訳無さそうに
苦笑している顔が見える。
「ごめん、ちょっとイライラしてて。つい本気出し
ちゃった。。。」
式部隊長のそのイライラの原因は、向こうで
溜め息をついている御子柴隊長だろう。
いくら鈍い僕だって、最近はそのくらい分かる
ようになった。
「清寿ぅ〜マジになんなよ。訓練なんだからさ」
式部隊長、今、イラッとしたな。
そういうのにも気付けるようになった。
「ごめん、って!羽沙希君にはきちんと謝った
んだから、笑太君は黙ってて」
怒っている時の顔は笑っている顔より綺麗で、
近寄り難くなる。
「あはは、怖ぇな」
叱られた御子柴隊長が、大笑いした。
式部隊長の不機嫌の原因は自分だと分か
っているんだろうに、この余裕はどこからくる?
「観てるだけだったら来なくたっていいのに」
「仕方ねぇだろ。ドクターストップかかってん
だから」
「そんなのいつも聞きやしないのに。それに
今日糸抜いて貰ってきたんじゃないの?」
「まだ傷が開いて出血する可能性もあるっ
てさ。結構パッカリ切れてたみたいだからな。
任務中に貧血でふらふら〜なんてシャレに
ならねぇだろ?だから訓練はパス」
「この前みたいに頭からダクダク流血してる
のはイヤだな。。。」
嫌味も軽々と受け流す。
この神経の太さには感心する。
「ところで、相変わらずキレイだな、清寿」
にやり、と、御子柴隊長は黒子のある方の
口元を歪めて唐突に云った。
「な。。。?」
式部隊長の頬が紅潮した。
「お前の戦闘フォーム。無駄が無くていい」
「。。。そう。ありがとう」
にこにこしている御子柴隊長と、
複雑な表情(かお)の式部隊長。
2人の間の空気がぴりぴりしている。

組み敷かれて強張った首と肩の関節を解し
ながら訓練室の隅に来ると、イスに座っていた
御子柴隊長が歯を見せて笑いかけてきた。
「お疲れ。生きてて良かったな」
顔を見ながら、隣のイスに腰掛ける。
式部隊長はこっちへ来たくなさそうな感じで、
離れた所でタオルで汗を拭いている。
「なんであんなにイライラしてるんですか?」
「あぁ?清寿?」
御子柴隊長は顎を軽く上げて、斜め上から
見下ろすように僕を見た。
「まぁいろいろ、欲求不満なんだろ」
さらっと云ってから、にやっと笑った。
「笑太くぅ〜ん。。。」
頭の上から降ってきた声に、御子柴隊長と
同時に勢い良く振り返った。
「式部隊長っ!いつの間に?!」
僕達の背後に、腕を胸の前で組んだ式部
隊長が立っていた。
「今の、どういう意味?」
口調は穏やかで、顔も微笑んでいるのに、
背筋がゾクッとする。
なのに笑って返す、この御子柴隊長の余裕
は何だ?

「怒るなよ。今夜もお前んとこ行くからさ」

簡単なその言葉でさえ、
怒りを鎮めるのに充分な威力を持つ。

「何笑ってんだよ羽沙希?」
「いえ。何でもありません」
やっぱりこの人が特刑最強なんだな。


―つづく



話は微妙に続いてます。。

たまに見せる素の姿が
可愛くてしょうがない。。
とか。
08/09/28Sun.


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