23. 居心地の良さに慣れ過ぎて


「しばらくこっちに泊まる」

紫色の目が丸く見開かれる。
「こんなカッコで帰ったらウルセェだろうし、説明
すんのも面倒だから」
頭にぐるぐると包帯を巻かれている情けない姿
の俺を見て、清寿が納得した様に、にこっ、と
笑った。
「そうだね。心配されちゃうもんね、“笑ちゃん”」
顔にその笑顔を貼り付けたまま、身体を翻す。
「傷、痛む?」
振り返りもしないで台所から声を掛けてくる。
「いや。今は痛み止めが効いてるみたいだ」
どこで待とうか迷ったけど、ベッドの上ではなく、
ソファに深く座る。
ここからだと、清寿の姿が見えるから。
「横になっててもいいよ。ケガ人なんだから」
俺の気配に気付いて、軽く振り返って云う。
「こんなの大した怪我じゃねぇ」
大袈裟に巻かれた包帯の上から、後頭部に
ある傷口に触ってみる。
「何針縫ったんだっけ?」
「3針」
「笑太君、それって立派な大怪我だよ」
「。。。任務中にこんな怪我すんの久々だな」
「しかもトラップにかかって転倒して切ったなん
てね!笑太君らしくない」
全くだ。
新人の前ではしたくないような失態だった。
「羽沙希が無愛想なヤツで救われたよ」
あはは!と笑った声と、調理をしている音が
聞こえてきた。
「何作ってんだ?」
「笑太君の怪我が早く治るように、栄養の
あるもの」
いい匂いが漂ってきた。
俺の知らない家庭の香りが、ここにはある。
「ね、笑太君。しばらくって。。。いつまで
来るの?」
「抜糸すりゃあこの包帯も取れるだろうから
。。。1週間くらい?」
そう。。。と、清寿は小さな声で呟いた。
そしてそれきり黙ってしまった。

「ご馳走さま。美味かった」
「良かった。お粗末さまでした」
隣から立ち上がろうとした清寿の肩を引き
寄せる。
「激しい運動禁止。傷が開いちゃうよ」
「キスは激しい運動じゃねぇだろ?」
呆れたような笑みを浮かべた唇を奪う。
傷を労るように俺の頭を柔らかく挟むように
持って、清寿はねだるように唇を重ねてきた。
「清寿」
「。。。だめ。そこまで」
両耳の上を持たれて、首筋に埋めようとした
顔を、ぐっ、と、持ち上げられた。
「怪我したばっかりなんだから、今日はだめ」
「え〜。。。」
「早く治りますように」
包帯越しに傷口の上にくちづけられた。
「でも本当は。。。早く治って欲しくない」
顔を見上げようとしたけれど、頭を両側から
押さえられていて上を向かせてもらえない。
「治ったら、一緒に帰ってこれなくなる」
「清寿。。。」
「またひとりになるから。。。」
ぽたっ、と、頬に冷たいものが一粒落ちてきた。

云いたいことは俺でも分かる。
その先を云っても仕方無いと諦めているから
黙ってしまうのが清寿らしい。

居心地の良さに慣れ過ぎて、
清寿への配慮が足りなかった。

腕を伸ばして清寿の頭を後ろから掴んで、
胸元に抱き寄せる。
「お前がだめだって云うなら何もしない。でも、
抱き合って眠るくらいはいいだろ?」
切なげな吐息が、俺の顎を撫でた。

気付くのが遅過ぎる。鈍くてすまない。
俺はお前を泣かせてばかりだ。。。

―つづく



だからって
どうにもならない。
超えられない。。
08/09/27Sat,


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