22. こんな時ですら浮かぶ顔


「笑太君っ!」

泣くな。

「。。。っ!」

泣くなよ、清寿。

「式部隊長っ、キケンです!」
「離して!」

ゴクッ、と、唾を飲み込んだのは羽沙希か?

「離してくれないと羽沙希君でも。。。切るよ」

布の擦れる音の後で、
一歩下がって、コツン、と、ブーツの踵が鳴った。

「大丈夫。ちゃんと殺してくるから」

バカだな、羽沙希。。。手ぇ離しちまったのかよ。
しっかり捕まえておかないといけなかったのに。
駆け出した足音が、どんどん遠くなっていく。

「追。。。え」
「御子柴隊長!」

やっとの思いで声を絞り出す。
口元に、羽沙希が耳を寄せてきた。

「あいつを。。。清寿を。。。追え」
「でも御子柴隊長の怪我の手当てが先。。。」
「早く清寿を追えって!」

俺のことなんか放っとけ。
心配なんて要らない。

「じゃねぇと暴走するぞ。止めろ、羽沙希」

弾かれたように、羽沙希は身体を起こした。
清寿は俺のことになると見境を失くす。
俺が動けないとなると、止められるのは羽沙希
しかいない。

「行け!清寿を連れて帰ってこい」
「。。。了解!」

追っていた死刑囚の仲間に待ち伏せされて、
不覚にも頭部を負傷した。
意識を失いかけて、止めの一発をブチ込まれ
そうになった瞬間に清寿が駆け付けてくれて
命拾いした。
――笑太君っ!
声だけ聴いたら泣いているのかと思ったのに、
泣いてはいなかった。
――。。。許さないっ!
血液が流れ込んで深紅に染まった視界の
中で無表情に清寿が呟き、立ち上がった。

凄絶な殺気を放つ横顔。
怒りを漲らせた後ろ姿。

時生。。。

目の前の光景が、思い出したくない記憶の
残像とダブる。
アイツも俺に何かあると見境をなくし、怒りに
瞳を紅く染めて、処刑の域を超えた"殺戮"
を何度も行った。

待てよ。清寿は、アイツとは違う。

頭からの出血が止まってないから赤く見えて
るだけで、清寿の瞳が紅く染まってたんじゃ
ない。
清寿はアイツみたいには絶対にならない。
大切な人を喪う痛みを知ってるから。。。

「清寿。。。戻って来い。。。」

こんな時ですら浮かぶのは微笑んでいる顔。

横に居て、俺を安心させてくれ。
優しく笑って、お前のこと信じさせてくれ。
お願いだから、傍に。。。


―つづく



云って欲しい言葉を
云って、と云えない
清寿と、
言葉が足りなくて
想いが伝わらない
笑太。。

この10題は
こんな感じで。
08/09/27Sat,


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