―Emotional Day in Sep.21―


鮮血が吹き出した様に、
舞い上がった真紅の色彩で視界が遮られた。


やらかしてしまってから気付いても、
もう、どうにも出来ない。
反射的に閉じられた瞳が開かれて、凪の水面の
様な真っ青な瞳が、無表情に僕を見詰めている。

頭の中が真っ白だ。
濃密な香りで眩暈がしそうになって、
何も考えられない。
云うべき言葉が出て来ない。

無言で僕を見続けていた笑太君が口を開いて、
ゆっくりと一言一言区切るように云った。

「それでお終い?」

何が云いたいの?意味分からないよ。
違う。
意味の分からないことをしているのは僕の方だ。

「まだ気が済まないだろ?」

笑太君が云いたいことなんて本当は分かっている
けれど、心の中で否定する。
自分のことは自分で分かっている。
けど今は、分かりたくないんだ。

「気が済むまで俺を好きしていいから」

誰の?どんな気が済むまで?
こんなに好きで好きで身動きが取れないって、
全然分かってくれてない。

「清寿、愛してるよ」

人形みたいに綺麗な顔は、真面目になればなるほど
表情が消えて、本当の心が見えなくなる。

バシッ!

白いシャツの胸元に向かって、もう一度真っ赤な薔薇
の花束を叩きつける。
笑太君は衝撃が加わる一瞬だけ目を閉じて、直ぐに
目をしっかり開いて僕を見る。
その強い視線が、僕を混乱させる。
自分でも、どうしたいのか分からない。
言葉にならない感情をぶつけるように、何回も続けて、
花束を笑太君にぶつけた。

「また僕をひとりにするなら来なくていいのに。。。」

みっともなく泣き叫びそうになるのを堪えて足元を見ると、
飛び散っている紅い花弁が血液みたいに見えて、処刑
直後の現場に立っているような幻覚に囚われた。

僕には愛して欲しいなんて望む資格なんて無い。
こんなに血で汚れているのに。
愛し合っても癒すことも癒されることもない傷を抱えて、
その傷を舐めあうように抱き合うことに、意味なんて無い。
そうやって求めることを諦められれば、楽になれるって
分かってるのに。

「笑太君の鈍感!」

力が抜けて、身体の横にだらりと垂らした右手から花束
だったものが地面に落ちる。
荒くなった息が治まってくると、嗚咽が込み上げてきた。

「もういいか?」

ふわり、と、両頬を包みこむように持たれて、上を向かさ
れた。宥めるように優しく重ねられた唇を拒んで、肩の上
に頬を擦り寄せる。
「良くないよ」
強く抱き締められ、背中に腕を回す。
「笑太君、帰っちゃうんなら、これ以上はしないで」
首筋に、優しく唇が触れる。
「それとも。。。一緒に居てくれるの?」
笑太君は何も答えずに、僕を床の上に押し倒した。
「誰が帰るって云った?」
唇を唇で塞がれた。
息をするのも忘れて、何度も角度を変えて唇を重ね、
舌を絡ませ合う。

「清寿、誕生日おめでとう」

唇が離されて深く息を吸い込むと、薔薇の香りで噎せそう
になった。
「だって今夜来れるって云ってなかった」
柔らかい髪を掻き上げて、頬に手を添える。
「だから今年はひとりで過ごすんだなって思ってて。。。
なのにいきなり真紅の薔薇の花束を持って現れるなんて、
驚いて当然だよ」
顔を引き寄せて、微笑みかける。
「これ、誰の入れ知恵?」
笑太君が言葉に詰まった。
「笑太君はこんなこと思い付くひとじゃない」
「あ、いや。。。藍川が。。。」
「藍川隊長?」
予想外な名前が出てきて、今度は僕が言葉を失った。
「あいつスゴいんだ。特刑上層部全員のパーソナルデータ
把握してて、誕生日なんかすらすら出てきてさ。昨日くらい
から今日どうするんだって五月蝿くて」
笑太君のことだから、そんなの考えてねぇよ、とでも答えた
んだろう。
「ああ、それで歳と同じ本数の薔薇の花束。。。」
「そう。恥ずかしくてそんなの買いに行けるかって云ったら、
そうだと思って準備しておいたからって。帰りに取りに行った
からここに来るのが遅くなったんだ」
ふたりのやりとりが思い浮かぶようで、笑ってしまった。
「やっと笑ったな」
するっ、と、手品みたいに身に付けているものが脱がされて
いく。
「僕は笑太君が居てくれればいい。他に欲しいものは無い」
笑太君のシャツのボタンを外しながら、顎や鎖骨の上に
くちづけを落とす。
「らしくないことされると不安になるから止めて」
「頑張ってみたんだけど」
「だから頑張らなくていいって。笑太君はそのままでいい」
胸元で抱きとめた頭を上に向かせて、唇を重ねる。

「お前、恋愛に関してはもっと冷静で割り切ってるのかと思って
たけど、そうでも無いんだな」

僕の前髪に付いた花弁を抓んで取りながら云った笑太君は
ちょっびっとだけ嬉しそうで、憎らしいほど鈍感で癪に障った
けれど。。。

今日だけは特別に許してあげよう。


―The end―






P.S.
Happy Birthday to
式部清寿♪

PCトラブルで
相当ヤバかったですが、
なんとか間に合い
ました。。
08/09/21Sun.


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