20. 表情には出てないけど


表情には出ていないけど、
まともに顔が見れない。

笑太君の唇は、意外と良く動く。
無口な印象があるけどそうでもなくて、
顔立ちが整ってるから無表情っぽく
見られるけれど、そんなことない。
喋るし笑うし怒るし泣くし。。。
僕、今日、なんだかオカシイ。
口元にばかり、目が行ってしまう。
鼓動がいつもより早くて、目の奥で
ドクドクいってる。

せいじゅ?

耳が塞がれたように音も声も遠くに
聴こえていて、ぼーっ、と、してたら
笑太君に顔を覗き込まれた。
「あ。。。」
「顔赤いぞ、熱でもあるんじゃねぇ?」
そう云いながら手袋を取って、手の
ひらを僕の額にぴたりと当てる。
「熱は無いみたいだな」
うわぁっ!と、心の中で叫ぶ。
このヒトはなんでこんなに平然として
いられるんだろう?


昨日の夜、僕達はセックスをした。

望まれたことが嬉しくて、
触れ合った素肌の温もりが愛しくて、
求めに応じるのに必死だったから
あまり良く覚えていないんだけど。。。
何度もしてくれたくちづけの余韻が
唇や肌の上にまだ残っていて、
笑太君の顔がまともに見れない。


顔を真っ赤にして固まっていたら、
頭を持たれて引き寄せられた。
「。。。!?」
不思議そうな表情(かお)でこちらを
見ている羽沙希君と、笑太君の肩
越しに目が合って、慌てて視線を
逸らす。
「バカ。普通にしてろよ」
耳元で、吐息に紛れてしまいそうな
小さな声がした。
「お前が緊張してると俺も緊張する
だろ」

くすっ。

笑ってしまった。
笑太君の左胸の上に当てた手から、
早くて強い心臓の拍動が伝わって
くる。
な〜んだ。
全然平然となんかしてないじゃない。
手のひらだっていつもより熱くなってる。
「誰かさんのせいで腰が怠い」
そう呟き返してから、腕を突っ張って
笑太君から身体を離す。
少し俯き加減の前髪の間から覗く、
申し訳無さそうな表情(かお)。
そんな顔、一度させてみたかったんだ。
「今日は総隊長が頑張る日だからね」
「。。。分かったよ」
溜め息混じりの返事と優しい笑顔。


ずっとお前に触れてみたかった。
そう笑太君は云った。
僕だって、ずっとそう思っていた。
傍に居るだけじゃなくてもっと近く、
じゃれ合うようなスキンシップじゃ
なくてもっと深く、君を求めていた。
想いが重なって叶うまでにこんなに
月日がかかってしまったけど。。。
誰かを愛するという気持ちを思い
出せたのは、笑太君のおかげだよ。


「あ、遅刻!急がなきゃ」
「また五十嵐に嫌味云われんな」
ポカーンとしている羽沙希君の手を
掴んで、足早に部長室へ向かった。


―おわり



清寿にとっては
初めての。。
08/09/21Sun,


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