18. 息苦しくて声も出ない


息苦しくて、声すら出せない。


笑太君と三上部長と五十嵐課長がしている
のは、僕が知らない人の話。
僕が養成所を卒業して特刑に入隊した時は
もうこの世界から居なくなっていた人の。。。

なんでこんな話になったんだっけ?

ああ、そうだ。僕が知りたいって云ったからだ。
あの人との間に何があったか教えて欲しいって
笑太君にお願いしたからだ。。。
床に視線を落とす。
笑太君の右の爪先が、コツコツと小刻みに床
を蹴っているのが視界の端に見える。
これはイラついている時の癖。
桜澤。
その名が出る度、爪先の動きが一瞬止まる。
そしてその度に、僕は緊張する。

「式部?」

三上部長に呼ばれて、はっ、と、顔を上げる。
振り返った笑太君が、顔を覗き込んでくる。
「どうした、清寿?」
頭痛がするし、嫌な汗も掻いてる。
不機嫌そうにはしていても大人な対応をして
いる笑太君は偉い。
そんなの、僕には到底無理だ。
自分の精神(こころ)と身体に一生癒せない
傷を刻み込んだ人のこと、話したくも聞きたく
も無いから逃げ出してしまうかもしれない。
「顔色悪ぃな。疲れたか?」
心配そうに曇った青い瞳から目を逸らす。
「あのっ」
いつも通りの冷静な顔の三上部長と、訝し
そうに眉を顰めた五十嵐課長だけに、声を
掛ける。
「すみません気分が悪くて。。。失礼します」
深く一礼して、踵を返してドアへ向かった。
「おい、清寿!」
「更衣室に行ってる」
笑太君だけに聞こえる小さな声で言い残し
て、廊下に出た。

僕だけ逃げ出してどうする?
本当なら笑太君をあの場から連れ出して
あげなきゃいけなかったのに。
でも、無意識に何回も左肩に手をやってい
た笑太君を見ていたら、
息苦しくて、胸苦しくて、声も出なくなって、
どうすることも出来なかったんだ。。。

ぽんっ。
頭の上に手のひらが乗った。
「笑太君っ」
肩越しに、にやっ、と笑った口元の黒子が
見えた。
「バカ清寿。自分から聞きたいって云っといて
先に帰るのかよ?」
上から押さえるように頭を持たれているから、
振り返ることが出来ない。
「だって。。。ツラくて聞いてられなくて。。。」
「だから、お前が泣きそうな顔してどうすんだ
よって」
「そんな顔。。。してない」
頭上から手のひらが外されて、子供にする
みたいに髪を撫で始めた。
「泣くなよ」
優しい口調に、目頭が熱くなる。
「しっかり者の副隊長、か。。。ホントはちっと
もしっかりしてねぇのにな」
後頭部に手を添えられて引き寄せられた。
「笑太君には云われたくない。。。」
広い肩に額を擦り付けて、泣き出さないよう
に耐える。
僕が泣いても、笑太君は救われない。

「アイツのこと話せて、少し楽になった」

本当に。。。?
本当にそう思ってる?

やっと大きく息を吸うことが出来て、一気に涙
が溢れ出す。
「俺なんかの代わりに泣くなんてさ、ホント、
バカだよな。。。」

温かい手が、僕の背中をゆっくり撫でた。


―つづく



PCトラブルを
乗り越えて。。(泣

特刑最大のタブーを
乗り越えて、
2人の仲も
そろそろ佳境へ。。
08/09/20Sat.


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