14. たとえ気のせいでも


たとえ気のせいだとしても。。。

「清寿!」
ハッ、とした表情(かお)を瞬時に消す。
「話、聞いてた?」
軽く俯いて、皆の視線を前髪で遮る。
「う、うん。ちゃんと聞いてたよ」
嘘ばっか。
全然集中してなかっただろうが。
「俺らの命がかかってんだから。。。」
「分かってる」
途中で遮られて、云い掛けた言葉の形に
開いたままの口を、ゆっくり閉じる。
「。。。分かってるよ、笑太君」
後ろめたそうに目を伏せて、決して俺の顔
を見ようとはしない。
ここ数日、なんでかずっとこんな感じだ。
「何に気ぃ取られてんだよ?」
固く閉じた口元に、答える気は無いという
意思が漂っている。
五十嵐の聞こえよがしな溜め息。
三上部長の刺さるような鋭い視線。
次の任務はそんなに難しくは無いが、
警視庁が絡んできたので、そう容易には
いきそうに無い案件。
「続けて」
三上部長の冷静な声が五十嵐を促した。
分かりましたよ、と云う様に、五十嵐は鼻
から大きく息を吐き、任務の説明を再開
した。

「お前、この前からおかしいぞ」
部長室を出て、一歩下がって着いてくる
清寿に声を掛ける。
「。。。う、うん」
もそもそと、歯切れの悪い返事。
「云いたい事があったら云えって」
驚いた表情(かお)で俺を見上げた。
「何か云いたいことあんだろ?」
焦点が定まらない瞳は、云おうか云うまい
か迷っている証拠。
「云えよ。気分悪ぃな」
視線を前に戻し、歩調を速める。
ととっ、と、足を速めて追い掛けるようにして、
清寿が俺の横に並んだ。
「笑太君、あのね。。。」
「ん。何だよ?」
「笑太君の同居人って、蓮井警視?」
心臓が、大きく跳ねた。
誤魔化しは多分、こいつには通用しない。
そんな計算をする前に、顔に動揺が出て
しまっていた。
「少し前に突然笑太君がお休みした日が
あったでしょ?あの時電話口で、笑ちゃん
は体調悪いんで休みます、って云った声に
聞き覚えがあるなぁ。。。って思ってて」
一旦言葉を切って、清寿は一歩前に出た。
「この前の事件で蓮井警視とバッティング
しそうになった時に無線越しに声を聞いて、
あ、この声だ!って思い出して。。。
今までも何度か同じ状況あったじゃない?
そういう時、笑太君あまり話してなかったな
って、気付いちゃったんだ」
特刑の総隊長と、警視庁捜査一課の
管理官が同居しているという事実。
隠しているつもりはなかったが、こちらから
話すことでも無いので黙っていた。
「ねぇ、間違ってる?」
水面みたいに穏やかな紫色の瞳の中に
映る自分の顔を、無言で見詰め返す。

いつの間には足が止まっていて、廊下の
真ん中で顔を見合わせていた。

「まぁいいや」
沈黙を破ったのは清寿だった。
くるっ、と、身体を回転させ背を向けて、
すたすたと歩き出す。
「たとえ気のせいだとしても。。。そのうち
に本当のことを教えてよね」
それきり黙ってしまった横顔を見ることが
出来なかった。


―つづく



第一話(#1)で
清寿と珠は
初対面ぽかった
けど。。
#4で声は
知ってたっぽい
から。。
08/08/31Sun.


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