―Late Summer―


「夏が終わっちゃうね」

一件処刑を片付けて空を見上げ、清寿が呟いた。
日中は陽射しが強くてまだ暑いが、夕方を過ぎると
気温が下がっていくらか涼しくなる。
空の色も深みを増し、雲の形も変わってきた。
「そうだな。。。」
元々緩めている襟元を更に広げ、ネクタイの結び
目に指を掛けて崩して笑太が曖昧に相槌を打つ。
数歩前を歩いている清寿は別のことでも考えて
いるようだ。
陽に当たってより白く見える顔と青く光っている髪
に、陽を遮るように翳した手の影が黒く落ちていた。
「来年はまだ一緒に居られるかな。。。」
思わず漏れた、小さな呟き。
上を向いたままの清寿の横顔をちらっと見たのは
笑太だけで、羽沙希はいつも通り無表情だった。

「清寿、これから出掛けるぞ」

着替え終わって法務省を出たのは暗くなってから。
昼間が短くなってきたな、と、清寿が思っていた時、
横を歩いていた笑太が突然そう云った。
「出掛けるってどこに?」
にやり、と黒子のある口元だけ上げて意味有り気
に笑う時は何かを企んでいる時で、清寿の質問に
答える気は無いようだ。
「保井さんに車借りてあるから」
着替える前に地下に行ってしばらく帰ってこなかった
のはそういう理由(わけ)だったのか。
そんなことを考えていたら手を掴まれて、引っ張られ
るように駐車場まで連れて来られ、助手席に座る
よう促されて清寿は車に乗り込んだ。
「羽沙希も誘ったんだけど、フラれた」
仕事を離れて悪戯を仕掛けている時の笑太は、
子供みたいに楽しそうに笑う。
「ふ〜ん。。。で?どこに連れて行かれるの?」
前を見たまま、また、にやり、と笑うだけだ。
数分待って、清寿は大きく溜め息をついた。
「分かったよ、笑太君」
助手席側のドアロックに手を伸ばす。
「答えてくれる気が無いなら。。。」
シートベルトを外す音に驚いて、笑太が視線を遣る。
「わっ、清寿!何してんだっ?!」
口をへの字にして、清寿が答えた。
「降りる。明日も仕事だし、うちに帰る」
「待てって!危ないだろっ!!」
肩に伸ばされた笑太の手を躱して身体をドアぎりぎり
の所まで寄せて動きを止めた。
「悪いけど僕だって特刑副隊長なんだから、このくらい
でケガなんかしないよ」
笑太君だってそうでしょ?という表情で動揺している
笑太の顔を睨み返す。
「バカっ!ホントに止めろって!」
「危ないから、ちゃんと前見て運転して」
清寿は不満そうな表情で座席に座り直し、シートベ
ルトをパチンと締めた。
「お前さぁ〜。。。入隊した頃とキャラ変わったよな?」
笑太は肩で大きく息をしてから、失笑した。
「そう?変わってないと思うけど」
そうかもしれねぇ。。。と思った笑太の目線は瞬間、
上向きに泳いだ。
「で?どこに行くの?教えてくれるよね?」
にこーっ、と、清寿の顔は微笑んでいるが、目は笑って
いない。
「もうすぐ着くから」
「もうすぐ?」
「今年はまだ行ってなかったからな」
視線が和らいで、不思議そうに横顔を見ているのを
感じながら、笑太は笑ってみせた。
笑太の見ている方向を見ようとする様に、清寿も顔
を前に向けた。
市街地を抜けて幾つかのセクターを越えたようで、
視界は真っ暗だった。

「海だーっ!」

砂浜に乗り入れて、車を停めた。
外に出た清寿が、大きく伸びをしながら叫んだ。
「流石に誰も居ねぇな」
車から降りた笑太は、ひとつ身震いした。
盛夏を過ぎた夜の海は、風が強くて涼しいという
より肌寒かった。
「水遊びするには凉し過ぎるもんね」
靴を脱いで裸足になりながら、清寿が笑う。
「海に行くならそう云ってくれればいいのに」
波打ち際まで行って足先を海水につけると、冷た
かったのか身を竦めて後ろに下がった。
「そしたら水着とか持ってきたのに」
同じ事を数回繰り返し、やっと足を海水に浸した。
「持って来たってどうせ泳げなかっただろ?」
「でも。。。こういう時しか水着着れないから」
清寿は身体中に散在する傷跡を気にして、人前
では水着姿にならない。
「このくらい真っ暗で誰も居ないなら、思いっきり
泳げそう」
寄せる波が、清寿のジーンズの裾を濡らす。
「泳いでくれば?」
自分も裸足になりながら、笑太が云った。
「え?」
「上だけ脱いで、泳いでくればいい」
思っていたより冷たい海水につま先立ちになって、
清寿に歩み寄った。
「脱がしてやろうか?」
闇に慣れてきた目には、清寿の頬が赤く染まった
のが見えた。
「いいよ!風邪引くから。。。っ」
一歩下がろうとしたところを捕らえて、引き寄せる。
「清寿」
唇を重ねて、笑太は清寿の腰に、清寿は笑太の
首に腕を回す。
「笑太君っ、やだっ。。。」
清寿のシャツの裾をたくし上げ、臍や腹部の傷痕
にくちづける。
甘く蕩ける吐息が波音に紛れてしまうのをいいことに、
もっと上まで舌を遊ばせる。
「ああ。。。っ」
頭を押しやって胸の突起を食んでいる唇を離そうと
する清寿の背中や脇腹を、両手で愛撫していく。
「こ。。。っんなとこじゃ。。。砂が入る」
抵抗するのは諦めたようで、清寿の手から力が
抜けた。
「入らないようにする」
膝が崩れて後ろに倒れそうになった身体を支えて、
笑太が海の中に膝を付く。
「でも。。。海水が。。。!濡れちゃうよ」
腰の辺りまで来ている波を気にして立とうとした清寿
を制して、笑太は耳元で囁きかけた。
「大丈夫だから」
喘がされて声が掠れ、言葉にならない。
返事の代わりに、清寿は笑太の肩に、ぎゅっ、と、
しがみ付いた。

「夏になったらまたここに来よう」

波音の合間に、笑太の声が聴こえた。
「来年もその先も、ずっと、一緒に」
海風に混じって、熱い息が素肌に当たる。
「俺達は生きていくんだ。。。!」
昏い予感を抱きながらも、清寿は一生懸命に頷い
ていた。


                ―The end―






P.S.
去年は同人誌で
海へ行く話を
書いたので、
そう云えば今年は?
と、思って書いて
みましたが。。
ここ数日
いきなり涼しくて
UPするタイミングを
逸してしまい
ました。。
抱き合っていれば
暖かいって事で!
(汗
08/08/25Mon.


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