13. ぎこちなく微笑んで


ぎこちなくでも、微笑んで。。。

「どこ行ったんだ。。。あいつ」

清寿が居なくなった。
まだ靴を履き替えていないから、制服姿で
法務省内のどこかに居るハズだ。
特刑関係の部署は全部探した。
あんなに目立つヤツなのに、誰に訊いても
見てないと云う。
俺はムカついた時には射撃訓練場へ行っ
て保井さんに話を聞いてもらったりするが、
清寿にはそういう場所があるんだろうか?
そういう人が居るんだろうか?
そんなの今まで考えたことが無かった。
時々何か話したそうな表情(かお)をして
いる時があるのには気付いていた。
不安そうな表情をしている時もあった。
視線を合わせると微笑みを返してくるから
大丈夫なんだろうと勝手に決め付けてた
ような気がする。

あいつの話をちゃんと聞いてやった事って
あったかな?

「副隊長どこに行っちゃったんだろうねぇ〜」
「。。。なぁ柏原、お前、清寿がどこに居るか
心当たりがあんじゃねぇの?」
柏原は、唇を横に引き両端をほんの気持ち
上げて、にたっ、と、笑った。
「多分あそこだろう、っていうのはあるよ」
こいつに教えて貰うのは癪に障る。
「知りたい?」
しかしこの際、折れるしかない。
まだ探していない所、が思い付かないからな。
「ソウタイチョウに貸しひとつ」
「分ぁったよ!」

錆付いて軋むドアを開けると突然光が溢れ、、
視界に真っ青な空が広がった。

「。。。暑くねぇの?」
コンクリートの剥き出しの屋上に寝そべって、
清寿は目を閉じていた。
「下が冷たくて、気持ちいい」
手足を投げ出して仰向けに寝転んだまま、
瞼を開けて瞳だけが俺の方を向いた。
「笑太君、ここ、知ってた?」
その身体の真横に片膝をついてしゃがみ、
真上から顔を覗き込む。
「さっき柏原に聞いて初めて知った」
「そうだと思った」
無表情に目を細めた、白い顔。
「電話くらい出ろよ。何回も掛けたんだぞ」
手元に投げ出された携帯に視線を落とす。
俺の視線を追って、清寿の顔が微かに横を
向く。
「うん、そうだね。ごめん」
くすっ、と、口元だけが軽く緩んだ。
答えてはくれるが拒まれている気配がして、
会話が続かない。

法務省の建物で、唯一外に出られる屋上。
職員でもほとんど知らないというこんな所で
いつもたった一人で、自分の感情を処理して
たのか?

「三上部長と五十嵐課長、怒ってた?」
「いや」
「呆れてた?」
「いいや」
「。。。ごめん、笑太君。迷惑かけて」
「大した失敗じゃねぇよ。すぐに取り戻せる」
「でも、初歩的なミスしちゃったから。。。」

額にかかる前髪を指で梳き上げてやる。

「笑えよ」
「え?」
「いつもみたいに笑えって」
「。。。今?」
「そ。今」

驚いていた目が、本物の笑みを浮かべた。

「笑太君、それ。。。慰めてくれてるつもり?」

ぎこちなくでも微笑んでいてくれ。
ただそれだけでいいから。


―つづく



間の10題は
ゆっくりと。
互いを知る為の
STEP編。。
みたいな(^-^;ヾ
08/08/23Sat.


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