12. 何度も目が合う日


何度も目が合う。。。日。

「帽子、曲がってた?」
「ん?いや」
「髪、変だった?」
「いや。別に」
「顔に何か付いてた?」
「。。。何も」
「どうして僕の事何度も見てたの?」

朝から。。。
更衣室で挨拶を交わして横で着替えている時
から、部長室で任務の説明を受けている時も、
諜報課一班の部屋で作戦会議をしている時も、
現場に向かう間も、別行動になった死刑執行
の時以外はずっと、帰ってきて任務完了報告を
している間も、何度も見られてた。
視線を感じて笑太君の方を見ると、慌てたよう
に目を逸らして、何でもないよという表情(かお)
をするから余計気になる。

「。。。見てねぇよ。気のせいじゃねぇ?」

少し顎を上げて相手のことを見下ろすように
する時は、驚いたり動揺したりしている時の癖
だって知ってる。
「気のせいじゃないよ」
冴えた青い瞳が見開かれて、僕を見据えた。
その視線を絡め取り、外せなくする。
「僕はそんなに自意識過剰じゃない」
「そんな意味じゃな。。。」
「じゃあ、どうして?」
笑太君は、脱いだコートをロッカーにしまった
ところで固まっていた。
視線を捕らえたままで、僕もコートを脱いで
ロッカーの中のハンガーに掛ける。
「気になることがあるんでしょ?」
ネクタイをゆるめながら、シャツの第一ボタン
に手を掛ける。
「そういうの、なんかイヤだ」
視線を逸らし、目を伏せて、ボタンを外す。
「分かったよ」
深く息を吐き出す音の後、突然左肩の上
に手が置かれた。
「?。。。!」
驚いて視線を向けようとした瞬間に、その手
を軸に回転させるようにして、身体の向きを
変えられた。
ロッカーの前で向かい合って、見詰め合う。

「笑太。。。君?」

笑太君は大真面目な表情(かお)で、もう
片方の肩にも手を乗せて、軽く2回、痛くない
程度に叩いた。
続いて二の腕、その次は腰、その次は太腿
の横を同じように叩いていく。。。
「何。。。してるの?」
呆然と突っ立っているだけの僕に、含みのある
笑みと言葉が返ってきた。
「清寿、制服キツいだろ」
「。。。そう云えば肩のところがちょっと。。。
体重はそんなに変わってないのにな。。。」
僕の言葉を聞き終わらないうちに、お腹を押
さえて体を前に折り曲げて大笑いしている。

「バーカ!体型が男っぽくなってきたんだろ」

リアクションに困るようなことをいきなり云い出す
のはいつものことだけど。
「そ。。。そうかな?」
「ああ。骨格がしっかりしてきて、肩と腕の筋肉
が付いた。背も伸びたから余計に」
クスクス可笑しそうに笑っている口元に視線が
釘付けになる。

「お前も大人になったな、って、思ってさ」
「。。。なんか笑太君に云われると複雑」
「っんだよ、それ?」

笑太君だって腕とか肩とかがっしりしてきて体型
は大人の男の人っぽくなってきたよ。
中身はこの一年ほとんど変わってない気がする
けどね。。。とは云わないでおこう。


―つづく



19、20歳頃は
まだ成長期
ですから。。
08/08/23Sat.

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