―Little Wish in Midsummer's Night―


「なぁ、どこか寄ってくか」
「えっ?!ホント?」
「なんだよ、そのリアクション?」
並んで制服から私服に着替え始めた式部を横目で
見て、御子柴が不満そうに云う。
「そういうの、久しぶりだよ?」
式部は軽く肩を竦めるようにして小首を傾げ、笑みを
浮かべる。
「そうか?」
「そうだよ。暑いから早く帰ってゆっくりしたいって云って」
前を向いてネクタイを外していても、表情には微笑の
余韻が漂っている。
「寄り道して帰るのなんて、久しぶり」
この数日、立て続けに数件精神的に参るような処刑
をこなしていて、真夏とはいえ冗談のような猛暑の中、
式部も疲れてきている様だった。
微笑みに精彩を欠いてきたのは明らかで、無理して
笑うことも無いのにと思っても、それが性分なんだから
しょうがないか、と御子柴も最初は放っておいた。
「清寿疲れてんだろ?真直ぐ帰るか?」
午前中に1件片付けて、午後になって1件片付けて、
式部の顔から笑みが消えた。
「疲れてたけど、元気になった」
瞳を、くるん、と、回すように見上げられて、正視出来
ずに御子柴は視線を逸らし反対側へと移した。
「羽沙希は?」
「いえ僕は予定があるんで。お先に失礼します」
藤堂は、パタン、と、ロッカーを閉めて、2人に向かって
一礼すると、先に更衣室で出て行った。
「ツレないね〜羽沙希君」
くすくす、と、式部が忍び笑いを漏らす。
「全くだ」
ふ〜っ、と、御子柴が溜め息をつく。
「ね、笑太君」
「ん?」
「どこ行くの?」
形の良い唇が、綺麗な曲線を描いて訊いてくる。
「とりあえず飯食って。。。後は考えてない」
「笑太君らしい」
式部が目を細めて、またくすくすと笑う。
「どこか行きたいとこは?」
「笑太君の行きたい所でいい」
御子柴が呆れたように云いながら、ロッカーを閉じた。
「そう云うから面倒臭くて、いつも直帰になるんだ」
「そっかぁ。。。そうだね」
曖昧な笑みを浮かべて、式部もロッカーを閉めた。
「外で飯食ってけばお前も少しは楽だろ?」
「食事作るのは苦じゃないよ。1人の時も作ってるし、
笑太君も僕が料理してるとこ見てるの好きじゃない」
「そういうんじゃなくてさ。。。やっぱお前疲れてんな?」
「う。。。そうかな」
「そうだよ」
御子柴が顔を寄せると、式部は目を伏せて口元を
弛めた。
触れ合うだけのくちづけを交わし、離れる。
「何が食べたい?」
「笑太君は何が食べたいの?」
「どこ行こうか?」
「笑太君と一緒に居られるなら、どこでもいい」
唇が触れただけで潤んだ瞳に映っている自分の顔から
目を離せずに、御子柴は式部の頬を手のひらで覆った。
「答えになってねぇよ」」
普段は、制服を着て動いた後でもほとんど汗を掻かな
い式部の肌がしっとりと湿っているのは、暑さのせいでは
ない。
その理由を分かっていて、御子柴は自分を抑える。
「飯食って、適当にぶらぶら歩いて帰るか」
「うん。それでいい」
「昼間より少しは涼しくなってるだろうしな」
顔を引き寄せられて、式部が少し伸び上がる。
何度も唇の角度を変えて舌を絡ませる、深いくちづけ。
離れる刹那、互いの口から甘い吐息が零れた。

「向日葵が見たい」

花のような微笑みを浮かべて、唐突に式部が云った。
「向日葵?」
「確か第三セクターにある植物園が期間限定で夜間
ライトアップしてるってどこかに書いてあった気がする」
「じゃ、そこ行ってみるか」
「手を繋いで歩きたいな」
「ああ?」
「人が少なかったら、手、繋ぎたい」
伏目がちに躊躇うような口調で尋ねられたら、拒否
することは不可能に近い。
「指だけでもいいから、繋いでもいい?」
返事を貰わないと顔を上げられないのだろうが、髪で
表情を隠してもじもじしている感じが幼く甘えている
様に見えて、御子柴はあえて黙っていた。
「暑苦しいから、嫌、かな?」
「帰んぞ」
踵を返して大股でドアから出て行ってしまった御子柴
を、式部は慌てて追い掛ける。
「え?あ!?しょ、笑太君!」
法務省の敷地を出て少しした所で突然立ち止まった
御子柴に体当たりしてしまう寸前で止まったせいで、
式部は躓いて転びそうになった。
「清寿、手」
日中の熱気が残る舗装された歩道の上で、御子柴
は振り返って、式部の目の前に手のひらを上にして
手を突き出した。
「ホラ、手、繋ぐぞ」
にやっと笑った御子柴に、にっこりと式部が微笑む。
「早くっ」
「うん!」
しっかりと手を握り合って、夜の道を並んで歩く。
「向日葵って笑太君に似てるから好き」
「そうかぁ?俺、あんな風?」
「だって笑太君、夏の生まれだから」
「それ、ワケ分かんねぇって」
「いいよ、笑太君には分からなくたって」

深い青の髪に鮮やかな黄色の花は映えそうだな。

嬉しそうな横顔を視界の端で見ながら、御子柴は
歩く速度を少し緩めた。


―The end―






P.S.
ショート×2の部屋
で書いている、
もどかしい恋のお題
の反動で書いて
しまいました。
本当は子供の様に
繋いだ手を思いっきり
振って歩きたい
清寿の話。。
08/07/19sut,


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