07. こんなに近くても


近く、って、どのくらい?


更衣室のロッカーが隣同士でも、眠れない僕は
早く来て、朝が弱い笑太君は始業ギリギリか
ちょっと遅刻して来る。
帰りは帰りで、三上部長と話があるから、とか、
射撃訓練してくから、とか、一緒に着替えること
は滅多に無い。
任務中は廊下を歩く時も部長室で報告をする
時もすごく近くに居るけど、捜査に入ると別々に
なる事も多い。
言葉を交わすのは諜報課第一斑の部屋かバン
の中で作戦会議をする時だけ。
笑太君は喋り出すと喋るけど、気分が乗らない
と無言でデザートイーグルの手入れを始める。
そんな時僕はワイヤーのメンテをしたり、ぼーっと
していたりする。
「お前って分かりづれぇな」
そう云っていきなり笑い出した笑太君だって、僕
にとっては分かり辛い。
もっと近付いて来い、と云われても、近くってどの
くらいなのか、良く分からないままでいる。

慌ただしく任務をこなしているうちに、入隊して
一年が過ぎようとしていた。
大きなミスも問題も起こさず、今後も第一部隊
に所属していられることになって、ほっとした。
「来年度もよろしくお願いします」
そう云ったら笑太君が、にかっ、と、笑ったのが
印象的だった。

「飯っていつもどうしてんの?」
隣で着替えていた笑太君が、ロッカーのドア
越しに顔を覗かせた。
「作ってます。僕、自炊してますから」
驚いた表情で僕の顔をまじまじと見て、ドアの
向こうに引っ込んだ。
「今夜、飯食ってかない?」
白いシャツが肌の上を滑り降り、左肩の大き
な傷痕が露わに見えた。
「何がいい?好き嫌いあんのか?」
いつ見てもドキッとするそのケロイド化した傷
に言葉を失っていると、そう訊かれてしまった。
「イタリアンだっけ?フレンチだっけ?そういうの
が好きだったよな?」
一緒に食事をするのが前提で話を進めていく
のが、自分勝手な笑太君らしい。
「飯食いに行くの、お前の誕生日の時以来
じゃねぇ?」
あの時は呼び出されるかもしれない状況で、
素敵なお店を予約してくれたのに、ゆっくりす
ることも出来なかった。
「な、行きたい店とか、ある?」
もう一度、顔が覗く。
「笑太君の食べたいものでいいです」
その顔に、微笑んでみせる。
「どんな食べ物が好きなんですか?」
こんなに長く一緒に居るのに、まるで付き合い
始めのカップルみたいな会話だ。
我ながら可笑しくなって、笑ってしまう。
「今日はお前に合わせる。お祝いだから」
「お祝い?」
笑太君はロッカーのドアを勢い良く締めて身体
の向きを変え、真面目な表情で僕の正面に
立った。
「清寿と組めて、本当に良かったと思ってる」
目頭が熱くなった。
「ありがとう。そしてこれからもよろしく」
胸の前に出された手を握り返すと、笑太君は
照れ臭そうな笑顔を浮かべた。

「お前副隊長候補なんだからさぁ、泣くなよ」
「わざとやったクセに。。。」
「泣くとは思ってなかったんだ」

大きくて温かい手のひらが頬を撫でて、髪を
梳くように弄っている。
指から優しさがちゃんと伝わってくるから、嫌
じゃない。
むしろ、嬉しいと、感じる。


近く、って。。。このくらい?


―つづく



未知の領域
AB型×B型の
B→AB編。
お互いビミョ〜に分かって
ないんだよね。。な
感じで。
08/07/19sut.


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