06. 手を繋ぐかわりに


「放っておいてください」
清寿はそこで一拍置いて、俺の顔から視線
を逸らして床に落とした。
「これでも凹んでるんだから」
初めて見る、素の清寿。
失敗したと云っても大したことは無く、結果
的には任務は完了したんだから、そんなに
落ち込むようなことじゃない。
そう云ってやったらてっきり“大丈夫です”とか
作り物っぽい笑顔で答えるかと思い込んで
いたら、意外な反応が返ってきた。
諜報課一班のバンの最後部に蹲るように
して座り、俯いて目を閉じていると、まるで
本物の人形みたいだ。
「ふ〜ん。。。」
長い睫毛がビクッと震え、大きな目で俺を
見上げた。
「なんですか?」
口調は強気だが、瞳に力が無い。
「そんな顔も出来るんだな」
前にも一度だけ見たことがある。
初めて縋り付かれて号泣されてしまった時
と同じ表情(かお)。
「そんな風にからかって、楽しいですか?」
横を向いた目の周りが赤く染まる。
「からかってなんかねぇよ」

どう云ってやったら伝わるんだろう。
俺には自分を曝け出していいんだと。
自分を分かって欲しい、一人にしないで
欲しいって気持ちは切ないくらいに伝わっ
てくるのに、頑なな態度を崩してくれない。

「お前は今、一人じゃないって云っただろ?」
片膝を付いて手を伸ばし、頭を天辺から
掴むようにがしがしと撫でつける。
指が触れそうになった一瞬だけびくっと身体
を震わせた清寿も、拒まずに俺にされるが
ままになっている。
「そんなに壁、作んなよ」
「壁。。。なんて。。。」
前髪で表情を隠しても、噛み締めた唇が
見えている。
「俺達の仕事は経過より結果なんだから。
今日の内容で凹むような事は何も無かった
と思う。それに」
切り揃えられたさらさらの前髪の間から、
紫色の瞳が上目遣いで俺を見ている。
「それに?」
開いた口元から、噛んで紅くなってしまった
下唇が見える。
「俺の前では本当の自分を出していいって
云っただろうが」
数秒かの間があって、清寿の首ががくんと
脱力して、前に倒れた。
「だから。。。これが本当の僕なんだってば」
ごにょごにょと何か呟いたようだが、聞き取れ
なかった。

ブレーキがかかり、車体がバックし始めた。
「帰り着いたみたいだぞ」
無意識に、手を差し伸べていた。
戸惑いの表情を浮かべられて自分のしてい
ることに気付いたが、引っ込められない。
「ホラッ」
清寿が、笑った。
そして顔の前に強要するように突き出して
やった手を握り返してきた指には、予想外に
力が籠もっていた。
「全くぅ。。。まだるっこしいなぁ」
手を引いて立たせた清寿が制服の裾の埃
をぱたぱた叩いている隙に、こそっと近付い
てきた柏原が耳元で呟いた。
「気ぃ遣い過ぎだよ、アンタ達お互いに」
清寿が目を丸くして、俺と柏原を見た。
「僕。。。今はあまり気を遣ってないんだけど」
「ええっ?!それ本気で云ってる??」
「お前、それが“素”!?」
真面目な顔で清寿が頷いたので、思わず
吹き出してしまった。


手を繋ぐかわりに、言葉で心を繋ごう。
もっと知りたい。
もう少し近くに――


―つづく



AB×Bって
未知の領域。。
あ、血液型の話です
(分かってるって?汗)
08/07/19sut.


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