―Rainy Lazy Morning―


「やっぱり雨かぁ。。。」

横になったまま窓の外を見て、式部は溜め息をついた。
雨がガラスを叩く音で目が覚めて、真っ暗だった空が
薄明るくなるまで、ぼんやりと外と、目の前の御子柴の
寝顔を見ていた。
「綺麗な顔」
そう云われるのを本人は嫌がるが、明け方の乳白色
の光の中、彫りの深い顔にはくっきりと影出来ていて、
本当に端整な顔だと思う。
起きている時はじっと見ていると嫌がるので、こうやって
見詰めていられるのは式部がいつもよりもずっと早く起
きた時だけだ。
軽く開いた唇にくちづけしても、素肌が見えている胸元
に擦り寄ってみても、起きてくれるような時間じゃない。
嫌そうにむにゃむにゃ云うだけで、また眠ってしまう。
唯一例外なのは、無防備に投げ出された手のひらに
手のひらを重ねると、条件反射みたいに握り返してく
れる。
起きるには全然早い、変な時間に目が覚めてしまった
時、式部は御子柴に手を握ってもらう。
そうすると安心して、もう一度眠りに落ちていける。
次に目覚めた時、手が繋がれたままだと嬉しくなって、
その日は一日頑張れる。
“単純だよね”
今日もそうやってぎゅっと握ってくれた御子柴の手を、
式部は胸の前に持ってきて両手で包みこむ。
自分の心臓の音と御子柴の手から伝わってくる拍動
のリズムが同調していくような、優しい時の中に漂う。
寝直すには時間が足りないから、しばらくこのままで。
“今日の任務は何件だっけ?2件あったかな。。。”
最近人使いが荒い、と、御子柴は怒る。
確かにそうだ、と、式部も思う。
凶悪な犯罪も多くなって、複雑な捜査が要求される
ことも少なくない。
東都の治安は悪化している。
この都市はどうなっていくんだろう。。。
「。。。!?」
前触れも無く御子柴が寝返りを打ち、空いていた腕
を式部の腰に回して引き寄せた。
背中が撓って、身体が寄り添い合う。
式部の香りを確かめるように、御子柴の鼻先が髪を
撫でている。
 “もう少ししたら起きて。。。コーヒーを淹れて。。。”
式部は御子柴の胸元にふわふわと頬を擦り付けなが
ら、頭の上の方から降ってくる規則正しい寝息をしば
らくの間聞いていた。

ゆっくりと明るくなってゆく朝。
雨音が、少し優しくなってきた。

「。。。あれ?」

御子柴は覚醒すると同時に、包まっていた毛布を
見て驚いた。
昨晩寝る時これは式部に掛けてやって、自分は
シーツかなんかを掛けて眠ったような記憶がある。
当の式部の姿は腕の中には無くて、淹れたての
コーヒーの香りはするが、室内は薄暗いままだ。
上半身を起こしてみると、式部は御子柴の頭の
先の方で、床に座ってベッドの端に寄りかかるよう
にして顔をうつ伏せて眠っていた。
また伸ばし始めて肩甲骨の下の線より長くなった
ブルーブラックの髪が、白いリネンと、さらりと羽織
ったオフホワイトのバスローブの上に広がっている。
“綺麗な髪だよな”
髪を褒めると式部は喜ぶ。
長い方が似合うし、子供の頃から伸ばしていたか
ら短く切る気は無いようだ。
そっと触れると髪は濡れていて、シャワーを浴びた
後だと分かった。
「清寿?」
変な格好だが熟睡しているようで、御子柴が声
を掛けても起きる気配が無い。
「。。。にしても、何でそんなとこに居んだ?」
起こそうか、もう少し寝かせておいてやろうか迷う。
もしかしたら同じことで迷ったのかな?と、思うと
可笑しくなって、御子柴は笑いを噛み殺した。
明け方の変な時間に手を握られて胸元に抱え
込むようにされた時に眠りが浅くなって、寝惚けた
フリをして式部を抱き寄せた。
寄り添ってきて預けられた身体の重みと温もりに
安心して御子柴は再び眠ってしまったが、式部は
起きていたんだろう。

ひっそりと静まりかえった朝。
雨音が、優しくて心地良い。

「清寿、そろそろ起き。。。」
「わ!寝ちゃったっ!!」

シャワーを浴び、濡れた髪をタオルでがしゃがしゃ
拭いている御子柴の横で、式部がサーバーから
カップにコーヒーを注ぐ。
「今夜晴れないかな。。。」
式部は昨日から、やたらと今日の夜の天気を気
にしていて、何度も同じ言葉を口にする。
「今日の天気は雨のち曇りだってさ」
差し出されたトーストを受け取って齧りながら、
新聞の天気予報を見て御子柴が答える。
「そっか。。。」
すとん、とイスに腰を下ろし、式部は残念そうな
表情で太い息を吐いた。
「なんでそんなに今夜の天気が気になるんだ?」
そう訊かれ、式部の唇が尖る。
「どうせ、俺には関係無い、って云うから。。。」
口を真横に引き締めて、式部は御子柴を見た。
「星に願い事でもすんのか?今日、七夕だろ?」
御子柴が笑い出しそうな表情で云うと、式部の
表情も弛んだ。
「違う。去年お願いしたことが叶いそうだから、お礼
を云いたいの」
「去年?どんなお願いしたんだ?」
式部は肩を竦め、不安そうな表情(かお)をした。
「笑太君、僕のこと、好き?」
「あ、ああ。なんだよ、いきなり」
予期せぬ質問に、御子柴は面食らってどもりながら
答えた。

「僕の願い、叶った」

目が眩みそうな式部の微笑みに、御子柴は言葉を
失った。

「笑太君って星を僕に下さい、って、お願いしたんだ」

御子柴が伸ばした指先が式部の頬を撫でて、唇に
触れる。
「俺が星?」
立ち上がって御子柴の前に来た式部が腰を落とし、
向かい合うように膝の上に座った。
「そう、僕にとっては。光り輝いて導いてくれる、星」
唇を重ねて求め合って、甘い吐息が互いの思いを
満たしていく。
「あ、だめ、笑太君そこまで!遅刻しちゃうっ!」
「あぁ?!ったくぅ。。。またお預けかよ」
渋る御子柴に、式部が問う。
「ねぇ、今夜も泊まりにくる?」

雨の朝は穏やかで、気持ちがちゃんと伝えられる。

「一緒に居られるんなら、晴れなくてもいいや」
御子柴は、にっこり笑った式部の頭の天辺を掴む
ようにして、返事の代わりのつもりでぐしゃぐしゃと
撫で回してやった。


―The end―






P.S.
もうひとつの梅雨の話が
夜の話だったので、
朝の話も書いて
みようか、と思って。
気が付いたら
七夕の朝の話に
なってました(謎
だらだらした話が
書きたかっただけ
なのに。。

お預けくらった笑太が
リベンジ(笑)する
七夕の夜の話は
R-18部屋へ。
08/07/06Sun.


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