05. また明日も


「今夜空いてんだろ?」
突然の質問に、意図を量れず即答し損ねた。
半年も一緒に居るけど、こんなことを訊かれた
のは初めてだ。
「それとも何か用事ある?」
速度を緩めることなく前を歩きながら、肩越し
にこちらの反応を伺っている。
「いえ。別に。。。」
僕の返事を聞いて、満足そうに笑った。
プライベートな話なんてしたことがない。
お互い他人との距離の取り方が下手みたい
でしかもあまり興味が無いから、訊こうと思った
こともない。
「おいっ!」
任務完了報告を終えて更衣室へ向かってい
るとばかり思っていたら、御子柴隊長。。。
改め、笑太君は、いきなり別の部屋のドアを
開けて中に向かって乱暴に声を掛けた。
「おー、第一かぁ。お疲れ〜」
書類が山積みになっているデスクの向こうで、
五十嵐課長が顔を上げた。
「お疲れじゃねぇよ。ガセネタばっかり寄越しや
がって」
腕をしっかり掴まれて、連行されているみたい
な格好で連れ込まれる。
「任務中に頭打ったんだってな?大丈夫か?」
「心配すんならちゃんとした情報をくれ」
にやにや笑っている五十嵐課長と、仏頂面の
笑太君。
対照的すぎて笑いそうになった。
「ここんとこ続いてんぞ、諜報課のミス」
「すまんな」
「すまん、で済むと思ってんのかよ」
どっちがどっちとはあえて云わないけれど、まるで
大人と子供のケンカだ。
「久しぶりに奢れよ、イガグリ」
五十嵐課長は目を丸く見開いて、笑太君から
僕へと視線を動かした。
「ああ!いいぞ。式部も行くならな。三上さんも
誘ってみるか?」
「ええ〜っ!俺があの人苦手なの知っててそれ
云うかぁ?」
「一緒に呑むとイメージ変わるかもしれないぞ」
「どんな風にだよ?」
腕を掴まれたままのこの状況で。。。
行かない、なんて云える訳無い。

だけどまだ怖い。
近付いて、かけがえのない人になってしまってから
また失うことになったら。。。

「僕は。。。遠慮します」

笑太君は表情こそ変えなかったけど微かに瞳を
曇らせて、僕の腕を握っていた手から力を抜いた。
五十嵐課長のテンションも下がったみたいだ。
「じゃ今日はいいや。ツケとくぜ」
「おう。またの機会にな」
申し訳なくて、笑って誤魔化す。

大切な人。
そう思っている自分の気持ちは偽れないのに、
記憶に縛られて、ここから、踏み出せない。
もっともっと深く知りたいという欲求を押し殺し、
興味が無いからと切り捨てて、
近付いてこられると遠ざけて。。。

「じゃな、また明日」
「お疲れ様でした」
少し背を丸めるようにして更衣室を出ていく
後ろ姿を見送る。


また明日も。。。
きっとこの距離は縮められない。


―つづく



設定としては
清寿が入隊して
半年後くらい。
時間軸だけは順調に
前に進んでいる
という(汗
08/07/04Fri.


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