04. 呼び名


他人から見ればちっちゃいこと。
でも、自分にとっては大事なこと。


「御子柴隊長!」
ふ、と、意識が浅くなった。
頬に、温かいものが触れている。
少し汗ばんだ、手のひらの感触。
唇にひやりと、掠めるように何かが触れた。
指?それとも。。。
「隊長!」
顔の間近で聞こえる、心細そうな声。
清寿の髪の毛の先が、額の上で揺れている。
「御子柴隊長。。。」
急速に現実に引き戻されて、意識はクリアに
なった。
「。。。気が付いて。。。」
頬を撫でてくれている手が優しくて。
目が開けられない程怠いのは、身体に受けた
ダメージのせいか。。。

「笑太君。。。」

。。。!?
驚いた。
あれだけ名前で呼べって云っても今まで絶対
に拒否ってたのに。
俺とはキャラが違うから、上司を呼び捨てに
なんて出来ません、なんて云い張って。
もう一回、呼んでくれ。
ちっぽけだけど、俺にとっては大事なこと。
仲間なんて要らない。
そんなもの、もう要らない。
二度とあんなツラい思いはしたくないから。
させたくないから。
ちょっと前までは本気でそう思ってた。
意地っ張りな俺は自分では変われないから、
自分を護る為に引いてしまった線を超える
キッカケを与えてくれ。。。

「お願い、気が付いて!笑太君」

もっと、呼べよ。
そうしたら目を開けてやる。

「笑太君っ。。。あっ!気が付いたっ?」

涙ぐんだ目元を制服の袖で拭って、清寿は目
を伏せた。
「僕が勝手に動いたから。。。ごめんなさい」
頭を強く打っているようだ。
目を開けていると視界がゆらゆらする。
「。。。死刑囚は?」
「左胸部に弾が貫通して即死。ID確認は
済ませました」
出会い頭に撃ち合いになり弾を避けて後ろ
に飛んだ時に、頭をどこかにぶつけちまったん
だな。
「処理班には連絡したか?」
「はい。あと、救護斑にも」
頷くと、長く伸ばした髪が大きく揺れる。
「大分慣れてきたな」
清寿の顔に、微笑みが戻った。
「御子柴隊長」
「。。。」
わざと無視したと、ちゃんと伝わったようだ。
「。。。笑太君」
「なんだ?」
見てるこっちまで恥ずかしくなるような表情
(かお)、すんなって。
「気分悪くない?」
「いや。頭が少しクラクラするだけだ」
清寿が頭を左右に大きく振った。
「そうじゃなくて。。。えっと。。。名前で呼ば
れて。。。気分悪くしない?」
そうか。そんな事気にしてたのか。
「するかよ。考え過ぎだ」
そんなスッキリとした綺麗な笑顔を見たのは
初めてかもしれない。


分かり合って補いあえば、俺達はもっと強く
なれる。
ここまで来るのに、こんなに時間がかかって
しまったけど。。。


―つづく



じわりじわりと
近付いているように
見えますが。。

このタイトルがあったからこそ
この30題を選んでみました。
08/07/04Fri.


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