03. あともう一言


言葉って難しい。
伝わらない想いが、怖い。


「任務完了」
血のニオイにむせそうになる。
「処理班への連絡完了。まもなく到着します」
「ああ」
制服に散った血液と、先刻まで人間だった肉片を
手で払いながら、御子柴隊長は事務的に返事を
した。
「。。。おい、清寿」
死の気配で気分が悪い。
「顔色悪いな」
目の前に伸ばされてきた元は白かった手袋に滲み
た鮮やかな血の色で、眩暈がしそうになった。
「っ!」
「あ。。。」
咄嗟に手を払い除けてしまってから、後悔する。
顔を背けた勢いで広がった髪がスローモーションで
落ちていくような、奇妙な感覚。
驚いたように目を剥いた御子柴隊長の顔が、視界
から消える。
「す、すみません」
顔が、上げられない。
怖くて。
「いや、こっちこそ。お前、血、苦手だもんな」
「。。。すみません」
早く、早く。
処理班でも諜報課でも、誰か早く来て。

“親しくなる気は無い。懐かれても困る”

御子柴隊長はこの前ハッキリと、五十嵐課長
と保井教官に、僕との事をそう云っていた。
この人が居るからもうひとりで夜の中に居なくて
いいんだと思っていたのは僕の勝手で、面倒を
掛けていただけだった、と、知った。
ショックでは無かった。
深く他人と関わろうとした自分が悪い。
僕はそんなことが許される人間じゃないのに、
誤解してしまっていた。
でも、距離の取り方が分からない。
こちらからは近付かないようにした。
他の人と接するように笑っていればいいから楽だ。
なのに近付いて来るから、怖い。
「おいっ!」
両方の肘の所を掴まれて、ぐいっと持ち上げる
ようにされた。
驚いて、自然に顔が上を向く。
「スゲぇ顔色だぞ。大丈夫か?!」
真っ青な目が真直ぐ僕を見ていて。。。怖い。
放っておいて。お願いだから。
傍に居てくれるなんて、勘違いしないで済む
ように。
「大丈夫です!放して。。。っ」
そう答えた時、地面がぐにゃりと曲がった。

「俺の話も聞いてくれって。。。」
遠くから聞こえる、不機嫌な怒鳴り声。
御子柴隊長がイラついている。。。?
「聞いてる。だがお前のワガママはきけない」
相手は、三上部長?
「ワガママじゃねぇよ。俺はひとりでいいんだ。
仲間も相棒も要らねぇっ」
確か僕が配属になった日にもそう云っていた。
「それをワガママと云わないで何をワガママと
云うんだ?」
微動だにしない、落ち着いた声。
「処刑部隊は3人1組が基本だ。単独行動は
法律的にも許されていない」
「けどっ時生はっ!」
「あいつは特別だ」
「じゃ俺だって!」
「無理なものは無理だ」
長い沈黙。
薄目を開けて周囲を伺う。
医務室のベッドの上?僕、また倒れたのか。
もう何日も眠れていなかったから。。。
これじゃ特刑刑務官、失格だな。
「メンバーチェンジをするつもりはない」
医務室の端から冷徹な三上部長の声がした。
「このままじゃ、清寿が可哀想だ」
御子柴隊長が搾り出すように答える。
「俺なんかと組んでたんじゃ。。。実力あんのに
勿体無いって」
「御子柴、お前は桜澤とは違う」
諭すような、静かな口調。
「他人と関わるのを怖がるな」
返事の代わりに聞こえたのは、低い唸り声だけ。
怖がってる。。。?
そんな風には見えないのに。


伝わらないのは、言葉が足りないから?
自分から手を伸ばせば、届くのかな。。。?


―つづく



まだ遠いですねぇ。。
10題でどこまで
2人を近付けられるか
乾にもわかりません
↑無責任(汗
08/06/30Mon.


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