02. ライン( Line )


心の中で線を引く。
同じことを繰り返さない為に。


「なぁ、式部と上手くいってないんじゃないのか?」
「。。。ここまで追って来て云う事か、それ?」
嫌そうな俺の表情(かお)を見て、五十嵐が口元を
歪めて薄く笑った。
「今んとこ任務は全部完璧にこなしてんだから。。。
何か問題あんのかよ」
金色に光るデザートイーグルから空になった弾倉を
取り出し、新しいものを装填する。
ハンパな時間の射撃訓練場には、俺と五十嵐と
保井さんしか居ない。
カチャリ、と、安全弁を外す音がした。
轟音が立て続けに空気を震わせて、正確に一点
を打ち抜かれた人型の的が、衝撃で折れて後ろに
吹っ飛ぶ。
「悪い。何か話してたか?」
自然とそちらに向いた俺達の視線に気付き、耳
からプロテクターを少し浮かせながら、保井さんが
白い歯を見せた。
「いや。別に。相変わらず見事な腕前だな」
五十嵐が笑顔で答える。
「そりゃそうさ」
それに微笑み返してから片目だけを細めて少し
顎を上げるようにして、保井さんは意味有り気に
俺の顔を見た。
「なんだ?まだ新人と馴染めねぇのか?」
にやり、と、不敵な笑み。
「ちゃんと聞こえてんじゃねぇか」
聞こえよがしに、大きな溜め息をついてやる。
「余所余所しくてな、見ててこっちが恥ずかしく
なるくらいなんですよ」
黙れ、五十嵐。
「へぇ」
保井さんも食い付くなよ。。。
「部長室出る時に肩を押そうとしちゃビクッとされ
て“すまん”とか云って。それが毎回だっていうのは
問題だと思いませんか?」
細けぇとこまで見てんなぁ。。。
だから諜報課の人間は嫌いなんだ。
「ふぅん。式部はあまり射撃訓練には来ないから
な。。。組んでから何ヶ月経った?」
「。。。3ヶ月」
アンタ達の知らないところでちゃんと歩み寄っ
てるから心配無用!
そう声に出して主張出来ない原因は、自信の
欠如と。。。それと。。。
「俺が自分で線引いてんだよ」
「線?」
眉間に縦ジワを寄せて、厳しい顔で2人同時
に聞き返してきた。
「そう。わざと近寄らせないようにしてる」
デザートイーグルの重みを手で感じながら、目の
高さまで持ち上げて弄ぶ。
「あくまで仕事上の関係だ。任務に支障が無け
ればOKだろ?それ以上は過干渉だ。口出し
される筋合いは無い。それに、」
五十嵐の視線が、不自然に揺れた。
普通のヤツなら気付かないくらい、微かに。
「これ以上親しくなる気は無いし、懐かれても困る」
背後にあるドアの方向へブレた焦点が、俺の顔に
戻ってきた。
「大切になり過ぎて殺してでも自分のモノにしたく
ならないように。。。な」
心のキズを自分で抉り、血を流し続ける。
この生き方が不器用だなんて自覚している。
「御子柴。。。」
そんな痛々しい表情(かお)で見んなよ。
あの時死ねなかったからこそ、若造で頭でっかちだっ
た俺にだって愛情と憎悪が背中合わせだと理解る
ようになったんだから。。。
「さっきまでドアんとこに清寿が居たんだろ?」
ハッ、とした表情で、五十嵐は俺を凝視した。
「お前、気付いてて。。。」
「いいよ。ホントの事だ。あいつは俺と一緒じゃ苦労
しかしない。転属願いが出たらよろしくな」
沈黙が落ちる中、デザートイーグルの安全弁を外す
音が重く響いた。


思い出すと痛みと息苦しさが蘇ってくる。
苦い、記憶。
だから線を引く。
“御子柴笑太”という自我を保っていく為に。


―つづく



まだ心のキズも身体の傷も
癒えていない頃。。
だからちょっと素直じゃない
笑太の話。
08/06/30Mon.


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