01. かすめた指先


あと少し。
あとほんの少し、なのに、届かない。。。


部長室を出る時、御子柴隊長は僕の肩を後ろから
軽く押す。
任務が始まる時と終わる時。
一日に少なくとも一回、多い時は何回も部長室を
訪れるので、第一に配属されてからの数ヶ月、この
動作は幾度となく繰り返されてきた。
御子柴隊長にとっては自然な仕草なようで、ほとん
ど無意識にしてしまうようだ。
いい加減慣れてもいいだろうに、と思うのに、指先が
肩に触れた瞬間ビクッとしてしまう。
そんな自分が、とても嫌だ。
「あ、すまない」
僕の反応を指先に感じて一旦手を引いて、御子柴
隊長は短い謝罪の言葉を口にする。
「いえ。。。」
意識的に緊張を解いた背中に大きな手のひらが
ふわりと当て直されて、急かすように押す。
横にある顔を見ることが出来なくて俯いたまま、部長
室を後にする。
「悪ぃな」
彼は僕の背中から手を離し、すたすたと大股で歩き
ながら、振り返りもせずに云った。
「え?」
付いて行くのに精一杯だったので、驚いて聞き返す。
「いつも、すまない」
最初何の事なのかピンとこなくて黙って後を追って
歩いていると、今度は少しだけ顔を横に向けた。
「どうしてか忘れちまうんだよな。。。」
きょとんとしている僕の顔を横目で見て、御子柴隊長
は歩く速度を緩めた。
「清寿が他人に触れられるのが苦手だっていうの忘れ
て、つい触っちまう」
いつもは良く晴れた青空みたいな瞳が曇っている。
「いえ。。。そんな」
曇らせたのは僕。。。だよね。
「俺の事が嫌なら、三上さんに云って部隊を変えて
もらうっていう手もあるから」
いつでもどんな時でも笑ってきたのに、この状況では
笑顔なんて作れない。
僕の歩幅に合わせて、ゆっくりと横を並んで歩いて
くれているブーツの先を見ながら、なんて答えようか
考えていたら、腕をぐいっと掴まれた。
ビクッ。
反射的に全身が強張る。
次の瞬間、前から来た人が僕の横を通り過ぎた。
「。。。前向いて歩けよ。ぶつかるぞ」
「あ。。。ありがとうございます」
この手なら触れられても嫌じゃないのに、なんで僕は
こうなんだろう。。。
すっ、と、腕を掴んでいた力が抜けた。
「あ、あのっ!」
指が解かれる寸前に、僕は反対側の手で、御子柴
隊長の手が離れていかないように上から押さえてしま
った。
「。。。?」
「離さないでくださいっ」
不思議そうに見詰める瞳の中に映っている、必死な
表情(かお)の僕。
「僕のこと、ひとりにしないで。。。っ」

今ここでこの手を離したら、またひとりになってしまう。
やっと見付けた居場所を失ってしまうのは怖い。。。

呆気に取られ、言葉を失って僕の事を見下ろしていた
御子柴隊長が笑い出したのは数分後。
頭を抱えられたから顔を肩に押し付けるしかなくて、
抱き締められているような体勢になった。
「お前は俺の大事なパートナーなんだからひとりになんて
する訳ねぇだろ」
笑いで生じる身体の振動を直に感じながら、そっと目
を閉じた。
規則正しい心臓の音と、制服越しの温もり。
髪を撫でてくれる、優しい手。
「御子柴隊長。。。すみません」
もう大丈夫。きっと大丈夫。
明日からは、触られても、ビクッ、ってしない。
「力抜けよ。全く大人なんだか子供なんだか。。。
良く分かんねぇヤツだな」


かすめていた指先が、ほんの少しだけ近付いた。
。。。そんな気がしたのに。


―つづく



10000HITを踏んでくださった、
うさこ様のリクにお応えして。。
第一が2人だけだった頃の話。

ショートショート。。と云いつつ
10題づつの連作という。。
それって長編なんじゃない??
な、ちょっと詐欺っぽい感じで
書いていこうかと。。(汗
08/06/27Fri.

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