10:灰色の未来


これは昨夜の夢の続きだろうか――

「つまり中のコトは全然分からないってことなんだろ?」
溜め息混じりに笑太君が云う。
「うん。いじってある可能性は高いね」
柏原班長がいつもみたいにサラッと答える。
羽沙希君は何も云わずに2人が覗きこんでいる現場
の建設当時の見取り図を見詰めている。
そしてこう云う筈だ。。。
「やたらと天井が高いのは倉庫だった名残りですか?」
机の上に両肘を付いたまま振り仰ぐように羽沙希君
の顔を見て、柏原班長がこう答えるハズだ。。
「そ。ビルにしたら4階から5階くらいの高さがあって、
上から狙い撃ち出来るようにしてあるってのも考えら
れなくもないんだ。無駄に広いからやりづらいかな」

この光景は、数日前から繰り返し見る夢と同じだ。
諜報課第一斑のバンの中というシチュエーションも、
3人の居る位置も、見ている見取り図も、何かを
云うタイミングも内容も全く同じ。。。!

そんなこと、あるワケ無い。絶対に――

笑太君が顎に手を当てて、何か考え込んでいる。
他の人達は黙ってそれを見ている。
しばらくすると笑太君が口を開いて。。。
「今回は俺が行く。羽沙希、後方支援してくれ。
清寿は。。。どうした?」
僕の方を見た笑太君が、眉の間にシワを寄せる。
「清寿、顔色真っ青だぞ。気分でも悪い?」
こちらに向かって伸ばされてきた手が、僕の前髪を
掻きあげる。

ああ。こんなところまで夢と寸分違わない――

こういう本当は見たことの無い光景を見たことがある
ように感じることを既視感(デジャビュ)と云って、脳が
疲れている時に見るもの、というのは知っている。
でもこれは――
寝不足の脳ミソが見せる幻覚にしては、夢の光景と
一致しすぎて、肌が粟立つほどリアルすぎる。

「なっ、なんでもないよ。大丈夫だからっ」
それを聞いて笑太君は呆れたように云うんだ。。
「最近あまり眠れてないから体調悪いんだろ?」

この夢を見ている時はスゴくうなされているようで、
毎回笑太君に起こされてしまう。
だから、結末まで見れたことが無い。
けど一回だけ――
たった一回だけ――
しかも昨日の夜、結末近くまで見たと思う。

でもあんなのは嫌だ。。。絶対にイヤだっ!!

「笑太君。僕が行っちゃダメ?」

歯を食いしばって、そう云ってみる。
これは夢には無かった台詞。
変えなきゃ――この流れを変えなきゃ。。。

「バーカ。そんな顔色のヤツ行かせられるかよ」
笑太君は目を細めて笑って、僕の頭をぽんぽんっ
と軽く叩いた。
「大丈夫だって!だからっ。。。僕に行かせて!」
頭を揺らして笑太君の手を振り落とし、必死に
訴える。
「でもさ。。。」
「どうしても!ね、お願い、笑太君」

押し問答のように、繰り返されるやりとり。
夢の光景が現実になっているとしたら――
それが運命で変えられないものだとしたら――
この後笑太君が目の前の巨大な建物に入って
行ってしばらくしてから続けて銃声が聞こえて、
そして――

「あ〜も〜しょ〜がねぇな!好きにしろっ」
笑太君が折れてくれた。これで未来が変わった。
「うんっ!ちゃんと殺してくるから」
悪い予感で全身の神経がビリビリする。
「気を付けろ。障害物が多そうだからワイヤーは
不利だ」
深呼吸をして、笑太君の言葉に頷く。
「清寿、ちゃんと帰って来いよ。。。」
悪い予感を感じているのは僕だけじゃないみたい
で、安心してもらう為に微笑んでみせる。
「そんな顔、笑太君らしくないよ」

コルトガバメントを手に取って、前に進む。
もう振り返らない。
これでいいんだ。。。
僕の身に何が起ころうとも、笑太君が無事でいて
くれさえすれば、生きていてくれれば満足だから。

錆びたドアが軋んだ音を立てて開いた。
真っ暗で、何も見えない。
背後に人の気配を感じたと同時に床に転がる。
数発撃たれ、こちらも銃で応戦する。
近くの物陰に身を潜めて攻撃を躱し、息を殺して
周囲を伺う。

――夢の中では確かこの後。。。

カチッ。

激しい衝撃と熱波。

笑太君が僕の名前を叫んだ声が聴こえたような気
がしたけど。。。きっと気のせ。。。い。。。


End.



ショートショートじゃないだろ!
なくらい長くなってしまって
毎度のことですが。。
すみませんm(_ _)m

副題は。。
“未来永劫あなたのことは
忘れない”
と云う意味です。

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