09:想い出は秘色


耳元で聞こえていた荒々しい呼吸音が、徐々に
治まってきた。
「下ろすぞ」
声を掛け、背中と後頭部に手を当てて支えるよう
にして肩の上に乗っていた顎を外す。
くにゃり、と脱力していた上半身が反って、慌てて
しっかりと抱き直す。
「身体がアツい。。。」
うっとりと呟いて、清寿の頭が、がくっ、と下を向く。
向かい合って座るような体位からゆっくりと、仰向け
で横たえるようにベッドの上に下ろす。
人形みたいになされるがままになっている清寿の薄く
開いた唇からは、時折甘ったるい吐息が漏れてくる。
「清寿、大丈夫か?」
無造作に頭の横に投げ出された手の指に髪がさらっ
と絡まりついた。
「ん。。。大丈夫。気持ち良かった」
笑おうとしてみせたが微笑みを作りきれなかったようで、
清寿は大きく上下する胸郭の上を両手でそっと押さ
えた。
胸と、胸に当てた手を押しつぶさないように注意しな
がら上から覆い被さるようにして頬に軽く唇で触れて、
顔を首筋に埋める。
「ははっ。。。笑太くん」
清寿の身体が小刻みに震え、肩を竦めるようにして
俺の顔を持ち上げた。
「そんなことされたらいつまで経っても心臓がバクバク
しちゃって落ち着かないって。ここ何日がほとんど眠れて
なくて。。。寝不足だっただけだから大丈夫」
困ったようで嬉しそうな微笑みを浮かべて、頚に両腕
を回してきた。

「初めての時の事、笑太君は覚えてる?」

“目の部屋”の優秀な監視システムでも拾えないだろう
息みたいな声で、耳元に口を寄せてきた清寿が囁いた。
「僕はちゃんと覚えてるよ。笑太君の熱も息遣いも何を
云ってくれたかも。笑太君の肩越しに見えた空がどんな
色だったかも、全部覚えてる。。。」
頚の後ろのところで組まれた手の、俺の素肌に触れてい
る手首から、清寿の鼓動が伝わってくる。
「ひとりの夜に思い出すと切なくなっちゃうんだけどね」
速い脈拍。浅い呼吸。冷めない体の熱。
「ずっと一緒に居られたからいいのに。。。」
清寿にしてみれば精一杯の告白なんだろうと思う。

ごめん、と謝るのも可哀想な気がした。
無理云うなよ、と云うのも違う気がした。
俺だって覚えているよ、と答えても何の慰めにもなりは
しない。

黙っていたら、清寿がころころと笑った。
「なんてさ。笑太君は初めての人で今こうなってるんだ
から、たまに困らせたっていいでしょ?責任取ってとは
云わないから」
綺麗で優しい微笑みで、本音なんだか強がりなんだか
分からない事を云う。
「良くデキたパートナーで助かるよ」
皮肉っぽく云いながら強く身体を抱き寄せたら、耳朶
に噛みつかれた。


End.



お題がお題でしたので。。
こんな話になりました(汗
甘いようで甘くないという
そんな感じで。。
なんとな〜く
ひとつ前の話から
続いてなくもない?
とある夜の話。。


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